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ラブがネガティブを超えるために。電通・東畑チームによる、「メルカリしようよ!」の裏話【後編】

こんにちは。

メルカリ コピーライターの長嶋太陽です。

2018年11月から、メルカリは新しい広告キャンペーン「メルカリしようよ!」をスタートしました。

今回は、広告クリエイティブを手がけた電通・東畑チームとメルカリマーケティングチームによる「CMの裏話(後編)」です。「伝えること」について、様々な角度から考えるきっかけになれば幸いです。

前編はこちら。

電通・東畑チーム 左から:秋草拓哉(営業)、柳下祐介(ストラテジックプランナー)、小山真実(コピーライター/CMプランナー)、東畑幸多(クリエーティブディレクター)

メルカリ・マーケティングチーム 左:丹下恵里 右:南坊泰司

完璧にロジカルな人を好きになれるわけじゃない

丹下:「メルカリしようよ!」ってコピーのご提案を受けた時、恥を忍んで言うと、普通すぎるかな…?って思ってしまったんです。
でも、東畑さんは「これくらいがちょうどいい」と話してくれて、実際に仕上がりを見て、草彅さんの言葉になったとき…ちょうどいい!って(笑)。

東畑:コピーも大切ですが、「メルカリしようよ!」と誰が呼びかけるのか。そこがCMの最も重要なポイントでした。メルカリは安心安全のサービスであり、ライフインフラへとしてのイメージを変える後押しをする。そんな存在は誰なのか。みんなから愛される国民的存在であること。優しく誠実であること。あと、一番大切なのは、嘘がないこと。今の時代は、CMに出演していても「この人、メルカリ使ってないでしょ」とバレてしまう。サービスに対して嘘がない、説得力がある存在。そうやって考えた時に、草彅さんしかいないと思いました。草彅さんは、ジーンズやスニーカー、ヴィンテージアイテムの収集家としても有名です。良い物を長く使っていきたい、そんな想いに共鳴していただけるのではないか。

バッチリでしたね。CMのメイキングは、すべて草彅さんのフリートークですが、本当にサービスのことを深く理解されているし、何より、モノへの愛がある。その想いが本物だからこそ、伝えられることがある。まさに「メルカリ番長」は、草彅さんしかいないと思います。
あと、草彅さんって、声がいいんですよね。ブラタモリのナレーションも聴いていてチャーミングで心地がいい。草彅さんがいう「メルカリしようよ!」は、みんなに安心感を与えるんです。

南坊:クリエイティブの想像と計算って、ビジネスサイドの人には、なかなかできないんですよね。抽象的なものを具体的な形に落とし込んで、実際に完成させるまでに、さまざまなコミュニケーションが必要になります。

丹下:メルカリもそうですが、ITの業界には、抽象的な思考をする人が多くないんだと思います。数字、サービス、具体を積み重ねてきた人たちなので。どちらが正しいというわけではないんですけどね。

長嶋:CMのクリエイティブに直接指示を出すっていうのは、プロの仕事に介入することでもあるんですよね。極端な例えですけど、江戸前寿司屋に行って、寿司の握り方を細かく指示したり、シャリの温度を指定したりするようなことなのかも。
目的、好み、予算など、しっかりコミュニケーションをとって、任せるところは信頼して任せる。そういう関係性が理想だと思います。

東畑:プレゼンはロジックで行いますが、映像やグラフィックに昇華する際に、ロジックを外していく作業が必要になります。言語化できない大事なことがたくさんあって、数字や論理では伝えられない。そういう部分は、脆くて弱いので、すぐに論理によってやられてしまうんです。
完璧にロジカルな人を好きになれるわけじゃないように、隙が見えるところに人のチャーミングさがある。広告だけに限らず、表現を作る上では無駄や余白をどう上手につくっていくかが、とても大事なんです。
だから、ちょっとだけ隙間を残せるように、ごまかしながらふわっと喋ったりするんですよ(笑)。全部説明できるのがいいわけではないんです。

勝つためのプレゼンではなく、企業にとって、社会にとって、いい広告をつくるためのプレゼンをする。そのためにあえて説明しない部分をつくる、と東畑さんは語ります。

長嶋:ロジックで伝えられないことを、ロジックでなければ頷かない人に納得してもらう。ここに、クリエイティブという仕事の難しさがありますよね。

南坊:東畑さんチームは演出(実際の映像の仕上げ)まで想定して提案してくれるから、いい方に想像を超えてくるんです。提案から制作の流れの中のラストワンマイルが実はすごく重要。そこは、弊社の小泉とも詳しく共有しました。

小山:今回は、演出を手がける監督を頭に描きながら企画をしてきました。ストレートトークには、監督の力と草彅さんの力が不可欠。押し付けすぎずに、受け取れる余裕をつくる。その最適なバランスを探る上で、演出の力に頼らなくてはならない、と。

長嶋:さまざまなことを想定して、針に糸を通すような繊細な作業を乗り越えてきているんですね。

東畑:そこまでわかってくれる人ってなかなかいないので、ありがとうございます(笑)


目的を達成するために、立場や責任を無視しなくちゃいけないときもあります

長嶋:今回の作業を通して、気づいたことがあるんです。それは、権威というものが重要な役目を果たすということです。
僕は、「広告賞って本当に必要なのかな?」と思っていたのですが、実はそういう権威がクリエイティブを守るシステムになっているんですよね。
やわらかく繊細な「クリエイティブ」を守るために、「権威」が硬い殻のように機能する。「この賞を受賞した人が言っているなら」という説得力になって、表現の柔らかい部分を守ることができるんだな、と。

東畑:おっしゃる通りですね。人って、不安の感情が強いんですよ。それを払拭するためにさまざまな手段があるのですが、賞もその一つだと思います。
有名なカップヌードルの「NO BORDER」という広告をつくったクリエイター・高松聡さんは、かつて営業として働いていて、自分でコピーを書いてクライアントに持っていったことがあったそうです。
そうしたら、「営業が書いたコピーを持ってくるとは何事か!」と激怒されてしまった。彼はその後、数々の広告賞を受賞することになるんですけど、コックがコック帽をかぶっている、ということが人と人の関係の中で、重要視されるんですよね。世の中の真理のひとつだと思います。
本来、表現のやわらかい部分を守るのは、結果的にクライアントにとってもいいことなんですよ。だから、権威ではなくて、いっしょに課題を超えながら信頼関係ができていくのが一番いいんですけどね。

柳下:いっしょに課題を超えるということを達成するために、東畑は話をとにかく聞くんですよ。クライアントの話を聞いて、チームのメンバー全員の話を聞いて、預かって、最後の最後まで悩み続けている。こんなに考えて悩む人は他にいないんです。ただ、最後に、「こうだ」って決まるともう揺れない。


「東畑は誰よりも人の話を聞く」と話す柳下さん。クリエイティブとストラテジックプランニングは、二人三脚で仕事を進めるがゆえに、お互いの性質を理解しながら相補関係を築いています。

東畑:周りの人がどうかはわからないけど、僕のほうが話を聞く、とは思います(笑)
小さな違和感の裏に、伝えたいことがあるはずなんですね。それが知りたくて、それぞれの違和感の正体を気にします。伝え方がみんなそれぞれ違うんですよね。

丹下:何言ってるかわかんないからほっとこう、みたいなことになりませんか?(笑)

東畑:…それは、正直いっぱいあります(笑)。

一同:(笑)

東畑:でも、本当におかしい意見じゃなければ、必ず検証してみます。そこにヒントがある。話を聞くというのは、受け入れるということではないんですよ。いろんな立場があって、達成しなくちゃいけない責任もあるけど、ブランディングマーケティングの目的を達成するために、立場や責任を無視しなくちゃいけないときもあります。傾聴と無視のバランスが大切なんです。

ファンにとっての「ラブ」が増えるほうへ

営業の秋草さんは、今回の対談は見守り役。広告代理店の営業はチームを支え、仕事の全体を整理する舵取りを行います。分業制のプロジェクトを成功に導くキーパーソンです。


長嶋:最後に、メルカリに対して考えていることを、素直に教えてください。

東畑:ここは、メルカリ、メルペイ、どちらも担当している柳下が。

柳下:そうですね…。素直に、すさまじい希望があると思うんです。

CtoC、つまり、人と人との関わり合いの中で、僕らの知らない賑わいが生まれています。それなのに、「メルカリで2万円で売れちゃったー!」ってツイッターにはなかなか書かれない。
言葉は鋭いかもしれませんが、どこか闇市的な魅力があるんですね。これこそがマーケットのおもしろさでもある。
この場所が、もっと大切な存在になっていくために、私たちに何ができるかということを考えています。

小山:今の話が、賑わいの可視化の基本になっている考え方です。もっと人に言えるようにしたい、みんなで楽しみたい、ということですね。今いるファンにとっての楽しさを増やして、ファンにとってラブが増えるほうへ導きたい、と思っています。

柳下:そして、メルペイの登場は、最初にメルカリが生まれた時と同じくらいのインパクトがあると思っています。それを地続きでやっていきたい。第二の創業というくらいの気概ですね。

東畑:今後、メルカリというサービスが拡張していく中で、その真ん中には信頼と安心のブランドが必要です。CMの役割は、大きなブランドをつくること。みんなが、自分のものとして愛してくれるようなブランドに育っていくといいな、と願っています。

企画・編集・執筆:長嶋太陽