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ラーメン屋である僕たちの物語3rd season

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「ラーメン屋である僕たちの物語3rd」をまとめたマガジンです。3rd seasonの一気読みにオススメです。
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記事一覧

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ①

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ①

「Bohemian Rhapsody」


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高く、高く

水色の中を泳ぐ一羽の鳶が、遠くで鳴いた。

さらり柔らかい風が、段葛をすり抜けていく。

淡く色づいた花弁同士が触れ合うと、サワサワと嬉しそうに囁き合った。

満開の隧道を、人々はその花の可憐な運命にうっとりと魅入っていた。

古都鎌倉に

およそ800回目の春が訪れていた

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ②

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ②

「Another One bites The Dust」

2005年5月

鎌倉麺屋ひなどり

「いらっしゃいませー♪」

「ありがとうございます♪」

Kが入店してから一ヶ月が過ぎ、今年もG.Wを迎えた。

Kは相変わらずニコニコと笑顔で、大きな声でお客さんに挨拶をしている。

いいね。

とてもいい。

それはとてもいいのだが…。

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鎌倉麺屋ひなどり

同日 ランチ

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ③

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ③



「Neverland」

I 'm not a man!

ぼくは、やろうなんかじゃない!

I'll never be a man!

おとなになんか、ならないんだ!

LABOテーマ活動の友
「ピーターパン」より抜粋

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2005年

5月

鎌倉麺屋ひなどり

ランチ営業

「いらっしゃいませー!」

「なまず」から数日後

「ありがとうございますー!」

今年

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ④

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ④



「The Truth Is No Words」

「てめえ!!!」

「なんでお客さんを
大切にできねえんだ!!」

7坪の小さな店に響き渡る大きな怒号。

怒鳴っているのは、僕だ。

想いが伝わらないもどかしさの中でもがき、今にも暗闇の底へ沈んでいくところだった。

怒鳴ったところで、相手はより強固に心を閉ざすこともわかっていた。

それでも、もう飲み込めないほどのやり場のない感情はコントロ

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑤

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑤

「Rock and Roll,Pt2」














高く、高く

水色の中を泳ぐ一羽の鳶が、遠くで鳴いた

チャプン

チャプン

パチャ

パチャ

僕は果てしなく広がる青に浮かび揺られながら、遥か遠くの青と青が溶け合う所ー

水平線を眺めていた。

「はーーーーー、やっぱり俺なんてちっぽけなものだなあーーー」

サーフボードの上で大きな海と大きな空に包まる

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑥

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑥



青の火の

色無き風と

さらさらり

「FLOAT」

湿度を脱いだ風が、夏の終わりを町中にふれ回る。

蒸篭の中にいるような季節を越えて、蓋の抜けた空を見上げると、秋の色を帯び始めた。

気づけば無我夢中のまま、僕たちはまた一つ夏を駆け抜けていた。

「あれ」から3ヶ月が経とうとしていた。

2005年 9月末日

鎌倉麺屋ひなどり

PM15:00

「よ〜し!

みんなお疲れさん!あり

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑦

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑦


「BURN」

2005年

12月初旬

AM10:30

「こなぁぁゆきぃ♪ねえ、えいえんをまぁえにぃあまりにもぉろくぅ〜♪あぁあああ〜♪」

最近流行りの歌を口ずさみながら、僕は硬さを増した空気の中を走り抜け、原付を駐輪場に停めて店に向かう。

Gが入店してから、僕は2人に朝の支度を任せて、憧れの「重役出勤」を手に入れていた。

ひなどりの開店は11:30。

僕はそれまでに銀行で両替をし

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑧

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑧

「These Days」

「店長!久しぶりですな!」

「…Tっさん!」

買い出しから戻るとTっさんがいた。

懐かしい姿がひなどりにあった。

僕は嬉しくて飛び上がり、Tっさんに抱きついていた。

「なんだよ!お見舞いも断るし、退院してから今まで来ないし!つれないじゃんかよ!」

そして思いの丈をぶつけた。

「いやあ、すいません。ちょうど病院が混み合ってて、脳神経外科の病棟に入れられて、正

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑨

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑨

「Dang Dang」

「Prrrrrrrrr」

「Prrrrrrrrr」

夜営業に向けて仕込みをしていると、めじろ川崎店のY太から着信があった。

「P!」

「はい、もしもし」

「芳実さん!助けてください!」

Y太の悲痛な叫びが受話口を超えて、ひなどりに響き渡った。

「Y太!おい!どうした!?」

電話口のY太の剣幕に只事ではない気配を感じた。

「お、親父さんが…!」

親父が!

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑩

ラーメン屋である僕たちの物語3rd ⑩

「WATER BOYS」

2006年

5月

いよいよ来た!

今年も1番の掻き入れ時の
GWがやってきた!

正月三が日の賑わいもすごいのだが、やはり一番はなんと言ってもゴールデンウィーク!

我らがひなどりも年々日々、最高成績を更新していた。

この年も前年を凌ぐ、沢山のご来店があり、僕たちも日々必死でラーメンを作っていた。

そして怒涛の最終日を迎え、最後のお客さんを見送った後、僕たちは

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ラーメン屋である僕たちの物語3rd 11

ラーメン屋である僕たちの物語3rd 11

I said maybe

you’re gonna be the one that saves me

and after all

you're my…

「芳実さん…」

薄い月明かりが、小さな部屋に青白く差し込む。

よう子はゆっくりとブラウスのボタンを外し、自身の柔らかい輪郭を薄明に浮かび上がらせながら、目を伏せた。

月の光が、その膨らみから滑り落ちていく。

再び僕に向けたよう子の瞳

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