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【小説】夢見るドリー
ドリーは夢を見ていた。天から与えられた四肢は、なんの障害もなく、作動している。この世界で、不自由のない健康が、どれだけ尊いか忘れてしまった。もう何十年も――飽きるほど――生きたのに、いまだ勢いよく土を蹴り、走りまわることができた。仲間と同じように草原で食事を反芻したし、夜は母のぬくもりのなかで眠る。ドリーはそんな夢を見ていた。長すぎる白昼夢は、現実を麻痺させて、幻惑を溺れるほど与える。そして、だ
もっとみる【小説】少女満月病(しょうじょ まんげつやまい)
その日、月が落ちてきた。
つぶらでおおきな、あなたの瞳に、月は落下したのである。
わたくしは、あなたの友人である。
あなたは、充血し腫れた涙袋で言う。「わたしがわたしを傷付けたの、そうしたら月が――」
あなたは、両手で目を拭う素振りをするけれど、カラカラに乾いた瞳でいる。いっそう不可思議に思って――興味を以て――わたくしは、あなたの頬に手を添え、親指で両瞼を持ち上げ、瞳を見た。たしかに
【小説】No.02 血と汗と涙と海と
結局ぼくは、何者にも成れなかった。
天国をオマージュした、歪な極彩が広がっている。楽園のオブリージュが足りないので、ここへ――海へ――来た。おおきく指の間を開いた手のひらは清廉潔白、真似事も、強制もない。
浜辺に腰をおろし、砂を、ただ掬っては落とし、ただ掬っては落とす。細かな黄色は、強い風が吹けば、ぼくの頬を撫でるように汚すだろう。口を開くのに、わずか慄いた。砂を掬って――“死にたいのかな
【小説】No.01 歌劇
森の奧に、小さな庭がある。
そこでは十人ほどの少年少女が集団生活をしている。
物心が芽生えた頃から、彼ら(または彼女ら)は、生殖を叩き込まれ、「穢れ」を恐れた。排卵を止めて少女でいようと思ったし、射精を管理して少年でいようとした。成長を良しとせず、まるで成長に殺されるような高揚すら在った。反論し、唇を殺せるなら見せて欲しいとすら思っていた。それが現れることに期待すら在った。命が輝くのは、深く