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読書日記『世界のエリートがやっている 最高の休息法』

このnoteでは、フリーランスライターの村田保子が、自身の写真・ペンと色鉛筆で描く絵と文章で表現したエッセイをアップしています。今回は『世界のエリートがやっている 最高の休息法』(ダイヤモンド社)を読んだ感想です。

1.ほとんどがベーグル店を立て直す物語

驚きました。何の前情報もなく読んだのです。

マインドフルネス瞑想の入門書とされていますが、実践法などの説明は最初の数ページだけで、ほとんどの部分が、イェール大学医学部で脳科学の研究を志す日本人女性が、傾きかけたベーグル店を立て直すフィクションの物語です。

この物語が面白くて、一気に読んでしまいました。主人公はベーグル店のスタッフたちに働きかけ、ともにマインドフルネス瞑想を実践していくことで、本人にも周囲にも変化が起こり、ベーグル店が再生していくというストーリー。

物語を追いながら、マインドフルネス瞑想とはどういうもので、どう実践していけばいいのか、大枠を理解することができます。

2.瞑想が役立つのは、脳が疲れているとき

印象に残ったところが2つあります。いずれも、どういった状態にマインドフルネス瞑想が役立つかを教えてくれる場面。

1つ目は、主人公が傾きかけたベーグル店で働き始めたとき、無気力なスタッフたちを描写しているところ。

お調子者で注意力散漫。人から何か注意されることに過敏で反抗的。不遜で他罰的。受け身で主体性がない。ネガティブで無気力の塊。全員に共通していたのが覇気のなさだ。

程度の差はあるかもしれませんが、誰しも余裕がなくなると、こういう状態になることってありませんか? 心身ともに調子がいいときは大丈夫でも、仕事などで疲れ切ってしまっているとき、つい過敏に反応してしまったり、他者や環境のせいにしてしまったり、思い当たることがあり、耳が痛いと感じました。

でも、この状態は人間の脳が疲れているときに、目立ってくる一面に過ぎないものであり、その人本来の態度ではないということも分かります。このように描写されたスタッフたちが、物語の後半では、それぞれの個性や特性を活かし、ベーグル店の立て直しのために動き始めるのですから。

2つ目は、主人公にマインドフルネス瞑想を指南する教授の「心の休息はお金では買えない」という持論を説明するところ。

彼ら個人は、大きな成功を遂げたかもしれん。お金も知識も社会的地位もある。しかし、心の休息はお金では買えんのじゃよ。プライベート・ジェットで豪華な旅行をしても、何千ドルもするスパに行っても癒やされない何かがある。それに彼らは気づいたんじゃろうな。

疲れているとき、旅行などの非日常的な体験は、心を癒やしてくれます。でも、本当に疲れ切った状態で旅行をすると、表面的には楽しめるけれども、何かが元に戻らないまま、寂しい気持ちを滲ませながら帰路につくことに。私も何度か経験があります。

自分なりに気分転換を図り、疲れを癒そうと、お金をかけていろいろ工夫しているにも関わらず、疲れが取れきらないように感じるとき、脳は休めておらず疲れ切っているのかもしれません。

この2つの場面は、脳が疲れているとはどういう状態かを、具体的に教えてくれており、こういう状態になりそうなときには、瞑想が役立つということがこの本を読めば理解できます。

3.瞑想の方法はいろいろ。

物語のなかには、いろいろな瞑想の方法が出てくるし、序章に「脳の休息法」として具体的な実践法のインストラクションもあります。自分ができそうなものや、シチュエーションに合わせて、気軽に試せるものばかりで、日常の隙間時間でいろいろやってみたいと思いました。

なかでも、私がいいなと思ったのは、「モンキーマインド解消法」という認知行動療法の一種とも呼べるもの。雑念を頭のなかでうるさく騒ぎまくるサルに見立て、駅のプラットフォームにサルたちが乗った電車が入ってきて、停車し、去っていくのをただ傍観するという方法。自分の立ち位置はいつでもプラットフォームで、どんな考えや感情が湧いてきても、いろいろな電車が行き来していると想像してみるだけです。ポイントは、「駅」と「電車」、つまり「自分」と「考えや感情」を同一視しないこと。サルと一緒に騒がしい電車に乗り込む必要はないと知ることが肝なのです。認知行動療法は、考え、気持ち、行動を切り離して、常に観察しながら考え方の癖に気づき、修正していくカウンセリング手法で、第一歩は自分の考え方の癖に気づくこと。この気づきの段階に、マインドフルネスがとても役に立つことは間違いありません。今後のストレスコントロールは、このようなマインドフルネと認知行動療法を組み合わせた、「マインドフルネス認知療法」が主流になっていくのではないかと感じています。

最後に。この本の装丁は、男性が目を閉じた写真が上部1/3に配置され、その下は白地に黒の文字がシンプルにレイアウトされており、パッと見はビジネス書に見えます。女性がベーグル店を立て直す物語からイメージがかけ離れていて、読みながら「もっとおしゃれな装丁でもいいのでは」と感じていたのですが、実はこの表紙は、ビジネスマンにリーチするために、意図的にこのようなビジネス書に寄せたデザインになっているとのこと。この狙い通り、30〜40代の男性層に読まれ、16万部のヒットにつながったといいます。担当された書籍編集者の方の手腕に脱帽です。

最高の瞑想法_全体





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