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【青い春夜風】

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悩める2人の不登校少年と、その2人を3年間担任した1人の若い熱血教師の物語。「青春とは何か?」という問に対して、3人は答えを見つけることが出来るだろうか。
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2023年6月の記事一覧

青い春夜風 22

青い春夜風 22

Before…

【二十二】 意識が「おかえり」を告げた頃には、四人の客人は既に帰っていた。沢山のお菓子とジュースを残して。
「やーっと起きたか。俺まだ鼻血止まんねぇんだけど。やってくれたぜ。」
 頭がぐらぐらする。物理的にもそうだが、昨日のダメージも残っているのだろう。
「ってぇ、今何時だ…?げ、俺どんだけ寝てた?」
「三十分ないくらいじゃない?疲れてたんだろ。あとさ、そのさ、ありがとうな。あい

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青い春夜風 21

青い春夜風 21

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【二十一】「光ちゃん、本当に大変だったわね。」
 雅のばーさんに医者へ連れて行ってもらい、幸いと言っていいものかは分からないが折れたアバラは一本で、バンドをして痛み止めを服用していれば夏休みが終わる頃にはほぼ完治が見込める、と診断を受けた。
「ばーさん、すんません面倒掛けて。ありがとうございました。医者代は親父が帰ってきた時に、ワケ話してお返ししますんで。」
「いーのよ、いつでも

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青い春夜風 20

青い春夜風 20

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【二十】「…ってことがあってな。悪いが、もしかしたら休み明けに迷惑掛けることになるかもしれねぇ。」
 放課後、雅の商店で久々に店番しながら勉強していると、木ノ原と小関が訪れてきて今日のトラブルを報告しに来た。
「マザコンの林に、ネチネチの森田か。あいつらタチ悪いからなぁ。でもまぁありがとねん、三組はあいつらの言いなりから外れたわけだ。」
 最近の雅はこのネタになると妙に張り詰めた

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青い春夜風 19

青い春夜風 19

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【十九】 土日を挟み、今日の登校日を最後に夏休みへ突入する。
「何で今日授業あるんすかー?一日くらいいいじゃん!」
「仕方ないだろう、カレンダー通りに行くとどうしても今日一日は登校日になっちまうんだから。五時間目は授業潰して学活なんだから辛抱しろ。」
 うぃーす、と木ノ原を筆頭にかっ怠そうなクラスメート達を宥めながら朝のホームルームを終えた。正直俺だって休みにしてほしかった。祝日

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青い春夜風 18

青い春夜風 18

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【十八】「お疲れさん、参謀。乾杯。」
「おっつー!かんぱい!」
 学級レクでの雅の功績を称え、今日は俺ん家で飲もうという話になった。学校に戻ってから約二ヶ月、お互い支え合い、平野や篠、吉田といった長い付き合いの連中の手も借りながら、何とか順調に学校生活を送っている。五月の実力テストの結果には自分自身驚いた。中一の時のテストなんて下から数えた方が辛うじて早い、くらいの成績だったので

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青い春夜風 17

青い春夜風 17

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【十七】 連休が終わり、祝日が無い上に三年生最後の大会で大忙しな六月も文字通り駆け抜けるように乗り切って気付けば夏休みを目前に控えている。俺が持つ部では結果を残せず、市内大会で三年生は引退となった。頑張り抜いた三年とともに、俺も悔しさと感動の涙を流したものだった。

 連休明けに突然解消された三年三組の不登校問題は、ひと月半で僅かに、しかし確かに学級の色を変えた。元々高いポテンシ

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青い春夜風 16

青い春夜風 16

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【十六】「んでさ、北小の連中の話なんだけど…。」
「とりあえず、光佑ん家集合にして話聞かせてくれよ。今日一日行った時点で何となくあいつらがのさばってるのは感じたからさ。できたら平野と篠も呼ぼう。四人迎えるにはちょっと狭いけど。」
「狭くて悪かったな。」
「だってうちの商店じゃもっと狭いでしょ?お菓子とかはうちで準備してくからさ。」
 雅の提案で、平野と篠への連絡は吉田に任せ、一旦

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青い春夜風 15

青い春夜風 15

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【十五】 気合入れて作った朝飯のお陰で、久々の朝から登校は随分派手な登場になってしまった。窓側最後方で本当に良かった。変な空気はあるが、俺は特に気にしない。雅は、どちらかというと気付かないか、或いは気づいていながら上手く立ち回っているのだろう。

 休み時間になる度、雅は俺の机に座ってちょっかいを出したり、机に落書きをしては楽しそうに過ごしている。
「なぁなぁ、これ何描いたと思う

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青い春夜風 14

青い春夜風 14

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【十四】 なんだかんだ楽しみにしていたゴールデンウィークも、始まってしまえばあっという間に終わってしまう。前半に部活動を詰め込み、終盤二日は丸々休みにしてリフレッシュした。公私ともに充実した連休だったと言えるだろう。

 いつもより少し早く出勤して、久方振りの教え子たちを迎える。
「夢の国楽しかった!ずーっとコロナで行けなかったからね!」
「一日中オールでゲームやっちゃったっすよ

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青い春夜風 13

青い春夜風 13

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【十三】 親父のトラックは運転席と助手席、その後ろに席がある仕様だ。専ら親父が寝台として使っているようで、夜のうちに荷物を整理してシートベルトを発掘し乗れるようにはしたが、やはり若い中年独特の汗の匂いが染みついていた。一生懸命積み荷を運び、疲れて眠る親父を想像すると何だか喜ばしいような、切ないような不思議な感覚だった。そんなことを考えながらファブリーズを撒いて雅とばーさんが乗って

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青い春夜風 12

青い春夜風 12

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【十二】「雅、調子どうだ?」
「うん、だめだね。腹痛ぇ。肉傷んでたりしねーよな?」
「んな訳ねぇだろ。自分で食うならあんま気にしねぇけど、ヒトに食わせるもんはキッチリ注意しとるわ。」

 担任の家庭訪問中にも籠っていたが、本当にがっつき過ぎだこいつは。米三合炊いて、茶碗二杯だけ食ってあとは全部食いやがった。お陰で気分はとても良いが、食い過ぎで腹を下されると何だか作り過ぎたようで申

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青い春夜風 11

青い春夜風 11

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【十一】 明日からゴールデンウィーク。急いで下校指導に合流して生徒たちを送り出した。相変わらず「晴野ちゃん」なんて呼んでくれる可愛らしい教え子たちに「せめて晴野ちゃん先生、にしろよ」なんて小気味良いやり取りをしながらも、クラスで会うのは約一週間後ということにほんのり寂しさを感じている自分がいる。まぁ数日は部活動の練習や練習試合を組んだので、部員とは顔を合わせるが。
「晴野先生、相

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青い春夜風 10

青い春夜風 10

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【十】 学区に最近新しくできたファミリーレストラン。小学校区で言えば、菊宮小学区の最果て。よくもまぁこんなド田舎に建てたもんだ。
「皆、久し振りじゃん!今年は同じクラス、よろしくねん!」
「おう、久々。同じクラスっても、どうせ殆ど学校来ねぇだろ。」
「まぁまぁ篠っぴ。二人とも元気そうで良かったよ。少し煙草の匂いするけど、さては吸ってるな?」
 篠に平野、吉田。今年同じクラスになっ

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青い春夜風 09

青い春夜風 09

Before…

【九】 三年生による一年生恫喝事件からは、特に何事も無く四月が終わり、五月の二日目。全ての授業が終わり、ゴールデンウイーク前のホームルーム。この後に学年集会が開かれ、連休の過ごし方について主任が話をしてくれる。
「三年になって、あっという間に一ヶ月が終わったな。いよいよ明日から連休だ。細かい話はこの後の学年集会になるから、俺からは一つだけ。」
 すぅ、と息を吸って温めておいた台詞

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