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第4回 気づきが生まれる場をつくる。(後編)

小笠原 祐司 先生(明星大学教育学部教育学科通信教育課程 非常勤講師)

・NPO法人bond place ファウンダー
・山梨学院大学 学習・教育開発センター 非常勤嘱託教員
・独立行政法人中小企業基盤整備機構 人材支援アドバイザー(地域創業支援)
・青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム講師
※順不同


 前編では、ご自身の経歴を中心に「ワークショップ」に目覚めたきっかけや、その具体的な中身についてお話しいただきました。後編では、本学の通信教育課程で担当する「教育実践ゼミ」で行っていることや、ご自身が思い描く今後のライフシフトについてうかがいました。これからの教育現場でも重要視される「多様な学び」について、さらに深く考えるきっかけをもらえる内容になっています。


ここからは本学の通信教育課程でのことについてうかがいます。小笠原先生は現在「教育実践ゼミ」を担当されていますが、どのような内容なのでしょうか?

 私が担当している教育実践ゼミは、3日間の集中講義で行われます。教職をめざしている学生に対して、「なぜ教員になりたいのか?」「教員になって何をしたいのか?」ということをテーマの中心に据えて自身で再確認してもらうワークショップを行っています。企業でアイデア創発をしたり、自治体で新規事業を立ち上げたりするものと違って、教員養成が目的の通信教育課程ではワークショップ自体も「学ぶ」要素が強くなります。なぜこのようなテーマを設定したかというと、通信教育課程の学生にどのような悩みやニーズがあるかを探ったところ、教員採用試験の面接で動機や目標をうまく語れない可能性があることが見えてきたからです。3日間の講義が終わった時に、自分の言葉で語れるようにする。教員になってからも、何か困難があった時に立ち戻れるようにする。これが僕の役目だと思っています。

 学生のみなさんは、年齢も教員をめざす背景もさまざまで、動機や目標についていろいろな話をされます。それを聞けるのも、ひとつの学びになっています。なかには教員になるための自信を持てない人や不安を抱えている人もいて、そうした思いを誰かに聞いてもらうことで自身を見つめ直したり、勇気をもらえたりする機会が生まれています。そんな中で、誰かに聞いてもらえた嬉しさや、心の中にある不安、過去に対する悔しさなど、いろいろな想いが入り混じって感極まってしまう方もいます。

LEGO®︎ SERIOUS PLAY®︎メソッドと教材活用したワークショップの様子

受講する学生は、学習に対する「モチベーション」や、そもそも入学に至った背景など様々な学生がいると思います。そのあたり先生が感じている事はありますか?

 皆に共通しているのは、教員になりたいという思いです。社会に出て「やはり教員になりたいと思った」という人や、「教員になりたいという夢にもう一度チャレンジしたい」という方もいる一方、他の大学で人間関係がうまくいかず本学に入り直したという方もいました。過去の苦しかった経験も、私の授業では可能な範囲で語ってもらうことがありますます。話しをする中で、なぜ教員になりたいのかを再確認し、色々な環境や経緯があっても、同じく教員をめざしていて一緒に向き合ってくれる存在がいることに気づいてほしいと思っています。

 通信教育課程の良さは、みんなのモチベーションや、それぞれの背景などが大きく異なるからこそいろいろな人の話を聞いて、それぞれの立場があることを学び合えるところだと思います。先生が一方的に教授法を教える講義スタイルよりも、「なぜ教員になりたいのか?」「教員になって何をしたいのか?」を語り合う機会が大事なのではないでしょうか。

「なぜ?」を一緒に語り合うのが小笠原先生のスタイル(教育実践ゼミの授業風景)

小笠原先生の授業で、他に何か特徴的なところはありますか?

  今まさに「教育実践ゼミ」で行っているワークは、学生のみなさんが教員になった時に現場で置き換えて実践できるということを教えています。授業が終わった後に参考になる本を並べて、「今日の授業でやったことはこの本に書いてありますよ」、「〇〇さんが気になったことはこの本を読んでみるといいですよ」とお薦めしています。みなさん教員をめざして本学に来ている方なので、学ぶことに対する心の準備というか意識が高くて、私にとっても学びの場になっています。

授業を行う上で、心がけているポイントはありますか?

 いつも気になっているのは、授業が終わった後のことです。集中講義の3日間が、教員採用試験の面接の場や、学生が教員になった後に行う授業でちゃんと活きているのか。そのような観点から、できるだけ現場に即していて、実践できるものを提示したいと心がけています。学生たちから「教育実践ゼミで語ったことを教員採用試験でそのまま話せたので、練習の時間が必要ありませんでした」とか、「教わったことを教育現場でやってみたら、子どもたちがちゃんと話せるようになりました」とか、その後の成果を聞くとやった甲斐があったなと思います。“気づきが生まれる場をつくる人”が増えていることに喜びを感じるし、私自身も先生がその先生らしくいながらみんなと一緒になって教室をつくれるようになるための手助けをしているのだと再確認しています。

授業中の教室には、先生が選んだ「参考になる本」が並んでいます

小笠原先生ご自身の話も出ましたが、これから先はどのような未来像を描いていますか?

 これまでの10年間は、NPO法人を立ち上げるなど地域に関わる比率が高かったので、これからの10年間くらいはもう一度、企業の仕事などもやっていきたいと思っています。

 かつては、大学などの学校で学んで、企業で働いて、リタイアするという人生が一般的でした。しかし今後は、大学に行って、仕事して、ちょっと休んでまた大学に行って、起業して…というようなこともアリだと思います。変化に富んだ時代の中でひとつの仕事に固執することはリスクがあるかもしれないし、いろいろな学びで得たものを組み合わせることで新たな仕事ができるかもしれない。このまま今のスタイルで仕事を続けることもできるかもしれませんが、有効でなくなった知識やスキルを捨てて新しいものを取り入れるアンラーニングの時期があっても面白いかなと思います。

 このような経験を私自身が積むことで、大学の学生たちと外の世界をつなげる役割もできるし、背中を見せることで何かを感じてくれる人も出てくると思います。現時点でも私のゼミ生だった人が、卒業後にいきなり起業したり、フリーランスになって活躍したりしています。これからは企業の仕事をやっていきたいと話ましたが、明星大学での教員養成に関わるお仕事はとても楽しいので、引き続きよろしくお願いします。

いろいろなことに取り組まれている小笠原先生ですが、最後にご自身を一言で表すと“何者”ですか?

 難しい質問ですね。私は『何の専門家か?』というと、ワークショップかもしれないし、ファシリテーションかもしれない。NPO法人にも携わっているのでソーシャルビジネスでもあるし、大学でも教えているので教育でもある。つまり、何かひとつの専門家ではないのですよね。いろいろなものを掛け合わせて、今の私の専門性があるので一言で表すのは難しいですね。誰かに自己紹介する時には、人と人をつなげて学び合える場をつくっていますとか、いろいろとワチャワチャやっていますとか言っています(笑)。

 これからの時代は、教育の現場でも多様な学びが求められていると思うので、先生自身も多様な顔を持つ「何者でもある人」が活躍してくれるといいですね。私もより多様な学びを得るために、新たなことに挑戦していきます。

「何者でもある人」の小笠原先生が、次は何に挑戦されるのか?我々も楽しみです!