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第4回 気づきが生まれる場をつくる。(前編)


小笠原 祐司 先生(明星大学教育学部教育学科通信教育課程 非常勤講師)

・NPO法人bond place ファウンダー
・山梨学院大学 学習・教育開発センター 非常勤嘱託教員
・独立行政法人中小企業基盤整備機構 人材支援アドバイザー(地域創業支援)
・青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム講師
※順不同


 教員採用試験の合格に向かって、さまざまな方が学んでいる明星大学通信教育課程。学生には高校を卒業して間もない方もいれば、社会人経験を積んだ上で教職を志す方もいて、まさに多様性の宝庫です。その多様性は、学生のみならず、教える側の教員にもあります。

 今回は、通信教育課程を象徴する「多様な学び」をテーマにお話しをうかがいます。教育実践ゼミを担当する小笠原先生は、大学や企業、自治体などで、それぞれの立場や関係性を超えた対話の中から気づきを生み出すワークショップを行っています。さまざまな経験をお持ちの小笠原先生のお話には、教員になった時に多様な学びを展開する上でのヒントがたっぷり詰まっています。ぜひお読みください。


まずは、小笠原先生の経歴を教えてください。本学の国際コミュニケーション学科の第一期生だったそうですね。

 私は明星大学(通学課程)の卒業生で、2005年に英語英文学科から、現在の国際コミュニケーション学科になって最初の学生でした。在学中は教職志望で、夏休みに国際ボランティアと協働で多摩地域の小中学生に英語を教える「サマースクール」に4年間参加し、サークルでも「初等教育研究会 どろんこの会」に所属して土日は子どもたちと触れ合っていました。その後、教育実習に行った時に卒業してこのまま現場に出てしまったら今の慣習に流されてしまうと感じて大学院に進学することにしました。そこでいろいろ学ぶ中で、社会に一度出てから教員になるのもアリだなと感じるようになり、人財育成のコンサルティング会社で3年間働きました。

企業に勤めていた時は、どんな仕事をしていたのですか?

 クライアントの企業に対して、研修や組織開発の提案を行っていました。研修といっても単に知識を与えるのではなく、参加者が体感しながら学べる形もつくっていました。
 
 そんな時に明星大学に在学中の後輩から就職活動で悩んでいるという話を受けました。そこではじめて、本学の一室を、恩師の菊地滋夫教授(国際コミュニケーション学科)にお借りして10人くらいの学生を集めたワークショップを開きました。

 それ以降は、働きながら青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムというワークショップを学ぶ社会人講座に行ったり、ボランティア団体を立ち上げたり、出身地の山梨で毎週ワークショップをやっていました。明星大学でも、引き続き2ヵ月に1回のペースで学生と社会人を交えて開催していました。この頃は、職場のある東京と地元の山梨を行き来していて、そこにいない時も国内外を飛び回っていました。


まずは小笠原先生の“これまで”のお話を伺いました。本当に色々な経験をされてきた事がわかります(明星大学日野校にて)

小笠原先生をそこまで突き動かしたものはなんだったのですか?

 当時の上司にかけていただいた「7分の7楽しめ」という言葉です。7というのは7日間、つまり一週間の全部を楽しめということです。そのためには、仕事とプライベートをいい意味で公私混同しなさいと言われました。
 
 私はその言葉を信じて、仕事や大学で学んだことを山梨でのボランティアで実践し、ボランティアで得た知見を仕事に活かして、学びと実践と振り返りのサイクルを繰り返しながら地力をつけていきました。そうしていくうちに、土日にやっていたボランティア活動から仕事の話が入ってくるようになり、NPO法人を立ち上げました。同時期に独立行政法人 中小企業基盤整備機構のアドバイザーや、山梨学院大学の非常勤講師を掛け持ちすることになりました。

東京と山梨を活躍の舞台にお忙しくされていた中で、なぜ明星大学の通信教育課程に携わることになったのですか?

 学生時代にお世話になった職員の方が、部署異動で通信教育事務室の課長になり、お誘いいただいたのがきっかけです。以前から教員養成に興味があったので引き受けさせていただきました。今まで行ってきた、「ワークショップ」での経験を活かし、主に演習系の授業を担当しております。

OBとして参加した「就活生向けイベント」の一コマ。写真右が小笠原先生、中央は、紹介者の本学事務局の矢吹氏(※画像を一部加工しています)

ところで、なぜ「ワークショップ」に興味を持つようになったのですか?

 明星大学在学中に体験した「サマースクール」の影響が大きいと思います。プロジェクトを進行ながら英語を覚えたり、合意形成の仕方を学んだりして、まさにPBL(Project Based Learning)でした。大学での学びをベースに、企業での経験やその後の活動が積み重なっていった感じです。

「ワークショップ」では、どのようなことを行うのですか?

 自治体や企業、学校。それこそPTAや農家の集まりなど、主体はそれぞれですが、立場や考えの異なるさまざまな人が集まって、あるテーマについて話し合い、お互いに意見やアイデアを自由に出し合いながら気づきを得ています。

 テーマもその時々で異なります。例えば明星大学の学生と社会人の集まりで「仕事」をテーマにしてしまうと、社会人は自身の経験を語り、学生はそれを聞くだけになりがちです。そこで「毎日がワクワクするには?」とテーマを設定してみると、お互いに自分の経験について語れるようになります。立場の違う人同士の前提を一旦フラットにすることはとても大事な一歩です。

 立場や考えの異なる人が集まることも重要で、私が立ち上げたNPO法人が山梨県から委託を受けた女性の創業支援事業では、一番最初、起業したい女性はもちろんのこと、起業して1年目の人、5年目、10年目の人、起業なんて考えたことがない人など、さまざまな女性に来てもらいアイデアだしをしました。

そこから新しい気づきが生まれ事業を進めていきました。

 事業進めていく中でも、女性の参加者だけでなく、男性や、融資する側の行政と銀行の方も参加していただきました。それぞれが同じテーマでフラットに話し合うことで、今まで気づいていなかったことが浮かび上がってくることもあります。

 例えば、起業したい女性にとっては銀行に融資の話をしに行くのは、「何か間違ったらどうしよう」と思ったり、「このビジネスモデルではダメだ」と一蹴されるのではないかと感じたりして、ハードルが高かったそうです。一方で銀行の方は、女性が来ないから起業自体に興味がないのだと思っていたそうです。このような本音も、お互いの立場を一度取り払って話す機会が持てたから引き出せたのです。ひとつの事象についてみんなで話していくと、相手の本当の動機が見えるようになって、ワークショップの有効性を実感しています。

ワークショップ当日の様子。参加者の表情が印象的で活発に議論が交わされている様子が伝わります(小笠原先生提供写真)

 ワークショップのプロセスを通じて、企業や自治体、大学、まちの人たちなどにさまざまな気づきを生んでいる小笠原先生。本学の通信教育課程では、教職をめざしている学生たちにどんな「気づき」を生んでいるのでしょうか? 小笠原先生が担当する、3日間の集中講義の最後には涙する学生もいるとのこと。後編では、担当されている「教育実践ゼミ」でのお話と、ご自身の今後についてうかがいます。