kawai kazuma

小説家。大分県の国東半島に移住して古民家に暮らす。 畑や山、時々大工。

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小説家。大分県の国東半島に移住して古民家に暮らす。 畑や山、時々大工。

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自分について

 大分県のとある限界集落、そこで牧場を作るお手伝いをさせてもらうことになった。  僕は、30年以上自己嫌悪を抱えて生きてきた。今もそれは消えてはいない。何故そうなったかもいまだにわからない。けれど、もしかすれば小学校の入学式から不登校になって、それが何かとても悪いことなのだと大人達の態度から感じて罪悪感を持ちながら生きてきたからなのかもしれない。  大人達は僕を見ると不安を覚えるようだった。例えば平日に一人で公園を歩いたりしていると、多くの大人は避けるか、あるいは学校は?と

    • 矩(かね)

       頭の中に消化できないまましこりのようになった出来事があって、言葉が出づらくなった。  最近大工をしていて矩(かね)という言葉があるのを知った。縦と横との関係が直角に交わっていることを指す言葉。これが合っていなければ、歪んだ家が建つことになる。問題はここで基準。何を基準に矩をつまり水平と垂直の関係を作るか。それが歪んでいればいくら矩が出ていても歪みが生まれ、それは広がり続ける。大事なのは基準を見つけること。そして、1番大元の基準は重量だということ。目に見えない重量を探す。今

      • 継いだり塗ったり

         住居を変えて1週間が経った。新しい家は水道の濁り、床の軋み、雨漏り、天井から猫が降ってくるなど問題だらけだけれど、湧き水を汲みに行ったり一緒に暮らしてくれる小松家と工夫し合いながら楽しく暮らせるようになった。  けれどこの前、食器棚が倒れ、食器が割れてしまった。陽菜ちゃんが桃子さんの誕生日にお揃いで買った大切なお茶碗だった。これは継ぐしかないと、金継ぎ風のリペアセットを買って陽菜ちゃんと直した。割っておいて言うのもなんだけど割れる前よりもこっちの方がいいんじゃないかと思った

        • 分蜂

           牧場の母屋の床下にニホンミツバチが巣を作っている。僕もはじめて知ったけれどニホンミツバチはこの時期になると分蜂を始めるらしい。分蜂というのは蜂の数が増えて巣が狭くなる為、親元を離れ新しい巣作りを始めることをいうそうだ。  けれど前々から決まっていた母屋の畳を板間に張り替える工事の始まる時期と被ってしまい、結果、巣を丸ごと移設することに。デリケートな時期だけれど、蜂の専門家も呼んで話し合い、たまたま蔵にあった何かの樽(醤油樽?酒樽?穀物樽?)に移設することになった。  床下に

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        自分について

          ボロが出る

           大きな雨が降って、村は濃霧にすっぽりと覆われ、景色が小さくなった。  ここに移り住んで、小作人として牧場の整備や畑仕事や子供と遊んだり、家事をしたり自分では楽しんでいたつもりだったけれど、はたから見てると自己犠牲的で不安を感じさせてしまっていたみたいだ。そろそろ自分自身のことも進めていかないといけない時期になってきたのかも知れない。  話し合いをして、お互いの気持ちを知って、ここを離れることになった。と、言っても近くのどこかの空き家を借りて住んで、まだわからないけれど牧場

          ボロが出る

          ニルバーナ村牧場の食卓

           牧場の名前がニルバーナ村牧場になった。一緒に暮らす歩さんが決めてくれた。  この、大家とベビーシッターと小作人の3世帯が同居する江戸時代的で奇妙な暮らしの中で、食事は当番制になっている。当番の日は歩さんも朝、昼、晩と作ってくれて、中国に渡っていた経験から本場の料理の味を再現してくれる。中国版お好み焼きのような料理や、本来の作り方にこだわった満州に伝わる水餃子や、牧場が忙しい中15分ぐらいで作る余り物をアレンジした料理も野菜そのものの味を引き立たせた本当に美味しいものの味がす

          ニルバーナ村牧場の食卓

          山について

           山から甘い香りが漂って、姿は見えないけれど花が咲いているのだと思った。柑橘系の匂いに似た澄んだ香りだ。  初め山は怖い存在だった。獣、倒木、土砂崩れ、舗装された世界とは全く違うコントロールされていない世界。その不確かなものと対峙するといつもどうして良いかわからない。立ち尽くしてしまう。  でも、恐怖というのはいつも『知らない』から感じるもので、大抵の場合知れば少しづつ怖くは無くなる。人間もその人となりを知れば、怖く無くなる。だから、知ろうとする。その姿勢を作り続ける。  初

          山について

          馬と人のトイレ事情

           夜は山が近いからか、フクロウの鳴く声が聞こえてくる。けっこうはっきりと「ほー、ほー」と鳴いている。何種類かカエルも鳴き始めた。田舎の夜は実は賑やかだけれど居心地の良い響きだ。  馬房がある離れの二階に住まわせて貰っている。馬が来れば馬の頭上で寝ることになる。馬はあまり熟睡しないから、みんなが寝静まった頃、どんな音が聞こえてくるのか、その息遣いや草を喰む音が聞こえるだろう環境にわくわくしている。  自分達がここに移り住むことに決めた大きな理由の一つに、この馬房がある。元々は

          馬と人のトイレ事情

          めでる

           暖かくなって種を蒔いた。新しい土地の気候がまだわからない。それに春は寒の戻りがあって、寒さを受けると枯れてしまうから、じっと静かにその時を待っている。  温度を上げるためにビニールで覆って、少しづつ芽が出始めた。毎日朝晩水をやる。一緒に暮らすいおちゃんもたまに手伝ってくれる。水を与えるという行為がどういう意味なのか理解しているかわからないけれど、2歳にしてもう何かを与えるという喜びを持っている。そこに日々、励まされている。  お世話をするということと、制御するということは当