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めでる

 暖かくなって種を蒔いた。新しい土地の気候がまだわからない。それに春は寒の戻りがあって、寒さを受けると枯れてしまうから、じっと静かにその時を待っている。
 温度を上げるためにビニールで覆って、少しづつ芽が出始めた。毎日朝晩水をやる。一緒に暮らすいおちゃんもたまに手伝ってくれる。水を与えるという行為がどういう意味なのか理解しているかわからないけれど、2歳にしてもう何かを与えるという喜びを持っている。そこに日々、励まされている。
 お世話をするということと、制御するということは当たり前だけど違っていて、でも少し気を抜くとそういうコミュニケーションをとってしまっている時がある。自分の思い通りに支配してしまおうとしてしまう。だから相手が植物であれなんであれ完全に主体性を奪うようなことはしたくない。それはその方が美味しい野菜が出来るとか、健康に育つとかそういうことでは無く、自分自身の心にとってその方が良いと思えるから。それは馬に教わったこと。馬はお互いの気持ちをコミュニケーションによって理解し合おうとする関係性が出来ていないと動かない。泰阜村の牧場「てんま」でそのことを学んで、そのおかげで人との関係もそうなるように心がけるようになった。自分の気持ちだけでなく、その関係性の中に相手の気持ちが入る余白を作れるようになった。それでもまだ。だから、馬と暮らすという暮らしの形はとても大切なことなのだと思う。



 タラの芽も出始めた。天ぷらにする。まだ、野菜は出来ていないからあるものを頂く。菜の花、蕗のとう、ヨモギ、スギナ、野草を食べる。山に囲まれたこの土地は豊かさに溢れていて、春のほろ苦い野草を食べて身体の調子を整える。願わくば、野草をお手本として、誰かの身体になる野菜をたくさん育てられるようになれればと、日々、土を打つ。

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