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継いだり塗ったり

 住居を変えて1週間が経った。新しい家は水道の濁り、床の軋み、雨漏り、天井から猫が降ってくるなど問題だらけだけれど、湧き水を汲みに行ったり一緒に暮らしてくれる小松家と工夫し合いながら楽しく暮らせるようになった。
 けれどこの前、食器棚が倒れ、食器が割れてしまった。陽菜ちゃんが桃子さんの誕生日にお揃いで買った大切なお茶碗だった。これは継ぐしかないと、金継ぎ風のリペアセットを買って陽菜ちゃんと直した。割っておいて言うのもなんだけど割れる前よりもこっちの方がいいんじゃないかと思ったりして、壊れて終わりじゃないことの幸福感が凄かった。

 
 仕事の方では今はとりあえず食い繋ぐのに大工さんの元でお手伝いをしている。その人は牧場の母屋のリフォームをしていて、結果的に自分も古巣の牧場に出入りしていてなんだか変な気持ちになる。でも生きるためにそんなことは言ってられないので、あまり気にしないようにしている。蜂達も分蜂を終えて新生活を始めていて、少し励まされている。
 その仕事では、壁や柱を解体したり、畳を剥がして床を張ったり、新しい壁を塗ったり色々教えて貰いながら経験値を貯めている。いつかこの経験を生かして今住んでいる家も、これから住む家も良くしていきたいと思ったりしている。

 頭ではなく身体を使って、集中しながら細かい仕事をしていると認識のズレが修正されていくような気がする。頭だけで考えているとどうしても自分の感情やトラウマや妄想に囚われて自分の都合の良いように認識を歪めてしまう。だから、物と、或いは動物や自然と向き合うことが人には必要なのかもしれない。
 ありのままに世界を見ることは辛いことも多いけれど、雨が降ることに対してそんなに腹を立てないように、起きている現象の意義を感じることが出来るようになる気がする。そこを歪めてしまうと何もかもが食い違ってくる。雨が降るなら、屋根の下へ。壊れてしまった関係も、意識できないほど複雑に傷ついた心も、時間をかけていつか継げる日が来ることを願いながら、目の前の雨漏りを眺めている。

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