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「走っちゃう発達っ子」の幼稚園探し日誌③〜ミッション系園追憶と、情操教育の本質〜


凸凹がある子ども―特に走っちゃいたい衝動が沸き起こってくる子どもにとっては、園の年間行事の多さも問題になることがあるらしい。
もちろん我が家もその件については一応把握しており、まあ運動会などの定番イベントと季節モノイベント以外は無さそうな園であるかどうかチェックしていたりする。

要はその行事を大人目線で「完璧」に「演じさせる」タイプの教育を行う幼稚園だと、動きたくなってしまう子どもにとっては実に辛い。ごくシンプルな話であるが、自制を強く求められるのだから、そりゃそうだなという訳である。

実は筆者自身、実はこの件について身に覚えがある
筆者は限界集落寸前の田舎ミッション系超ゆるゆる・超少人数幼稚園出身であるが、実はひっそりやらかしてしまったことがそれなりにある。

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その中でもぱっと思いつくのが、クリスマス聖劇衣装破損事件である。
簡潔に罪状を述べると、クリスマスの聖劇衣装の羽根をちびちび千切ったのであった

大体のミッション系幼稚園の一大イベントと言えば、クリスマスの聖劇である。しかも手芸用物資が乏しい田舎の幼稚園でのことなので、その特別な日に園児が着る衣装は代々受け継がれているというにもかかわらず。である。

ゆるゆる園とはいえ、私の幼稚園では毎年このイベントだけはキリスト教の教えを子ども達に体感してもらう為だろう、大切な行事として何とかやっていた。
ただし指示の通りやすい、自己統制と教育が進んできた年長組に大事な役を割り当てて、年少・年中組は基本的にその他大勢の宿屋や天使役になることになっていたが。

ちなみに筆者はASDグレーゾーン特性がある子であり、平素おままごとの脇役キャスティングが友達から回ってこない日は孤独に工作遊びに勤しんでいた。
中でも特に、ハサミで紙を切り刻んではセロテープで張り付けて新たなモノを作り出す行為があまりにも好き過ぎて「切り紙職人」とまで評されていた。

そんな今の世であれば、そして園が集団行動に厳しい園の場合は配慮児扱いされそうな癖が強い子どもが、どういう訳か聖劇要のガブリエル天使役を拝命してしまった

・・・・今親になった立場でしみじみ思う。なんと恐ろしいことであろうか。事故は起こらぬだろうか。すいませんすいません。今になって詫び倒したくなるし謝罪行脚に回らせてくださいすいません。
ああ、きっと実母は気が気でなかったに違いない。


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ただASD特性有りといえど、セリフや文章、音楽を「暗記」するのはこの時点から割と好きな行為であった。その為かその成果を衆目に晒す演劇行為そのものはとても楽しく、問題なかった。

しかし演劇以外で問題が二つばかりあったのだ。
一つは感覚過敏故の事であるが、代々保存されて受け継がれている衣装の樟脳の香りと、天使役用の白タイツの感触が気持ち悪くて気が散り気味になっていた。

二つ目は演劇の幕が降りた後、暫く何もしない、所謂思い出アルバムの為の集合写真撮影タイムがあった。
恐らくはほんの5〜10分であるが、この時間が非常に苦痛であった。

記憶に有るのは、「劇が終わったんやから早よ動いて良いって言ってくれんかな」「この羽根、千切ったらどんな型になるんやろか」といった、自分の含まれる場の空気をまるで読まない一個人の思考である。
そしてモノを壊すことへの罪悪感は、ひそやかな衝動思考によって脳内の片隅へ追いやられたのであった。

そして空白の時間を有意義にすべく、切り紙職人の職務として純然たる悪行を実行してしまったのである。

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上記の悪行を実行してしまった私であったが、担任の先生からひどく叱られる事はなかった。

その代わりに「千切ってみたくなったの?あ、でも3枚くらいかな?来年は修理すれば大丈夫よ。」といった具合の、相手の気持ちや物を大切に出来ない悪いことをしてしまったのだと気づきを与えてくれる、温かい受容と諭しが待っていた。

一介の幼児のやらかしたこととはいえ、目を吊り上げて強烈な言葉で非難したり、叱りつけたりすることすらされず、寧ろ私自身の悪を赦して下さった先生への申し訳なさで、ひたすら土下座して謝りたくなる。
恐らくこの受容そのものが宗教的慈愛のひとつでもあり、この先生の施して下さった情操を育む幼児教育のひとつの型なのだろう。

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余談だが、私はこの年長時代の担任の先生が今でも本当に大好きで尊敬し続けている。
20年以上が経ってる今、我が子を育むうえでの心の中のスーパーバイザーとしていつも思い出してしまう。
ご都合主義での理解でしかないかもしれないが、こういう愛情深い受容体験こそがひとつの情操教育の形なのであろう。欲を言えば、今まだ見ぬ彼自身の幼稚園を探して訪問の旅をしている我が子にも、こういう温かみのある心の教育を受けさせてやりたいと思う。

最後に、すべての子どもたちに素敵な居場所と先生との出逢いが有りますように。

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