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山伏修行とサステナブル・ツーリズム -「持続可能な観光」のパイオニアとして-

みなさん、おばんでがんす。

株式会社めぐるんスタッフの水澤です。
1本目の記事を読んでくださった方、再びお会いできて光栄です。
お初にお目にかかる方、ようこそ、めぐるん社へ。1本目の記事にて執筆者を紹介しているので、この記事をお読みになった後にでも、そちらにも目を通していただけると嬉しいです!
https://note.com/megurun_st/n/nfa490e90ccfb

さて、新潟で生まれ育ち、京都、オーストラリア、秋田で経験を積み、山形へとやってきた私ですが、どの場所でも共通して重視されていたのが「持続可能性」という言葉。環境への配慮や「サステナビリティ」「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉としてもかなりの頻度で聞くかと思いますが、私たちめぐるん社は「持続可能な地域」の実現を目指し、観光事業を通した地域の活性化と地域資源のマネジメントに取り組んでいます。

観光プログラムの提供を通して、どうやって地域が持続可能なものになっていくのか。2本目となる本記事では、持続可能な観光についてお話ししていきたいと思います。

2022年3月、まだ雪が残る羽黒山からパシャリ
(筆者撮影)

1. 「持続可能な観光」の誤解と定義

まず「持続可能な観光」とは、一体どのようなものでしょうか?

「持続可能な観光」を文字通りに受け止めると、観光を持続可能なものにする営み、のようにも読めます。
ですが、「持続可能な観光」の本質は、それとは異なる場所にあります。
「持続可能な観光」の本質。それは、「地域を持続可能なものにするための、観光のあり方」なのです。
国連の一機関である世界観光機関によると、持続可能な観光は「訪問客、業界、環境及び訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在及び将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」と定められています。観光プログラムの提供者とその消費者のみが良い思いをするだけでなく、プログラムに関わる地域、利害関係者など全ての人に十分な配慮ができて初めて「持続可能である」と言えます。私はオランダの大学にて観光学の授業を履修した際、「持続可能な観光のために、観光を社会、心理、経済的側面から見ること」を学びました。経済的側面だけで推進される観光は、現代社会にさほど求められていないのです。

2. 「持続可能な観光」に関わる世界の潮流

特に国際社会において、「Sustainability」という曖昧な言葉に明確な枠を設けようという動きが顕著に見られます。GSTC (Global Sustainable Tourism Council) は、持続可能な観光への認識を統一するために設立された国際団体です。「観光地のマネジメント」「社会経済的インパクト」「文化的インパクト」「環境へのインパクト」という4つの軸を設定しており、基準を満たす観光地に認証を授与しています。
また、オランダに拠点を置く国際認証機関Travelifeは、全体で250を超える詳細な評価項目を用意しており、それらを満たす事業者に認証を授与しています。
近年の国際社会では、特に自然の中に長時間身を置くアドベンチャー・ツーリズムやグリーン・ツーリズムと呼ばれる観光形態において、これらの認証はより一般的となってきています。日本国内でも、インバウンドを対象とする事業者の中で、それらの認証の重要性が認知されつつあります。

厳しい基準を突破した事業者にのみ与えられるTravelife Certified認証(左)と、
持続可能な観光を目指す国際団体GSTC(右)
(両画像とも、google画像検索より引用)

3. 日本における「持続可能な観光」の現状とめぐるん社の取り組み

持続可能な観光に対する枠組みの整備が世界レベルで進んできていることから、日本においても前述のGSTC、Travelife導入の動きは年々高まってきています。特に「インバウンド旅行客を対象とした、自然の中での観光プログラム」を提供する事業者においてこれらの枠組みは重要視されており、数は少ないながらもTravelifeにおける最上位の認証であるCertificateを取得した事業者も存在します。

トラベライフの会員種別。JARTAホームページ「トラベライフについて」より引用 https://jarta.org/travelife


めぐるん社は、先述のGSTC、Travelifeのメンバーとして、認証の取得に向けて取り組んでいます。自然保護のみならず、地域経済・文化の持続可能性にも貢献するための事業を展開しています。地域に根を張る事業者の皆様に積極的に働きかけるだけでなく、羽黒山参道の杉並木の保全をはじめ、地域の自然・文化遺産の保護にも向けた取り組みにも積極的に取り組んでいます。

羽黒山五重塔付近で、杉並木の保全活動を行う様子。
(めぐるん社撮影)

また、月に一度社内で「サステナブル・ミーティング」を開催し、持続可能な観光事業に対する意識付けを定期的に行っています。海外と比較して、日本では体系的な「持続可能な観光」がさほど普及していません。めぐるん社が積極的な取り組みを進めることで「持続可能な観光」を山形から、出羽三山から全国に発信していきたいと考えています。

4. 出羽三山で「持続可能な観光」に取り組む意義

  • そもそも「持続可能な観光」に取り組む意義は?

前述のように「持続可能な観光」は、多くのルールがあるために、むしろ観光事業者にとって厳しいものになるかもしれません。そのような観光のやり方を導入する意義は、どこにあるのでしょうか?出羽三山と「持続可能な観光」が結びつく理由はなんでしょうか?

GSTC公認講師の高山傑(たかやままさる)氏は、持続可能な観光に取り組む一般的なメリットについて、主に以下の3点をあげています。

①質の高い旅行者が集まることによる経済効果
②旅行形態のニーズの変化・多様化への対応
③倫理観を重視する旅行客へのアピール

これまでの観光で主流だった「質より量」を重視するマス・ツーリズムでは、多くの人に安価な観光プログラムを提供することで、利益の確保を図ってきました。反面、この観光モデルでは観光資源の消費が進んでしまい、観光地に住む現地の人々の生活まではさほど考慮されていません。大挙して押し寄せる国内外の観光客によって、地元住民の生活が圧迫されては本末転倒です。そのため、単価の高い少数の観光客によって経済効果の恩恵を受けつつ、地域住民の生活を維持できることが重要なのです。

また、これまでの観光になかった、倫理観や環境負荷というニーズが生まれていることも、観光に持続可能性が求められていることの要因として挙げられます。「ただ楽しむだけでなく、観光地の環境にとって良いことをしたい」「現地のありのままの文化を体験したい」などと、観光によって生まれる環境負荷や、現地住民への影響、体験の文化的正統性(Authenticitty)も、旅行者の集客を左右する要因となりつつあります。TravelifeやGSTCをはじめとした厳しい基準をクリアした観光地及び施設は、既存の観光客はもちろんのこと、こうした新たなニーズを持つ観光客が優先して選択する可能性が高いのです。

  • 出羽三山における、持続可能な観光のあり方

持続可能な観光を推進するメリットと現代の観光客のニーズを出羽三山に照らし合わせると、出羽三山が今後、観光地として進むべき道が見えてくるのではないでしょうか。

自然の中に身を置き、精進料理を堪能してもらい、連綿と続く山伏の文化に触れてもらう。出羽三山に生きる人にとっては身近な日常も、観光客として訪れる人々にとっては大いに価値のある体験です。ありのままの生活に観光資源としての需要がある「体験型観光」を出羽三山が提供しているからこそ、地域本来の姿を保ちつつ、質の高い体験価値を提供していくことが重要なのです。

現在、出羽三山の観光は、多くの観光客が1度に来訪するマス・ツーリズムが主流です。シーズンにもなると、羽黒山の山道は各地から訪れた参拝客で賑わいます。サステナブル・ツーリズムの観点からすると、もしかしたら自然環境にとって悪影響を及ぼしているかもしれませんし、観光資源である山々の保護にもっと力を入れる必要が出てくるかもしれません。ですが、地域社会からの観点から見るとどうでしょうか。より多くのお客さんを受け入れることで、1度に多くの方が出羽三山の文化・歴史・自然に触れ、魅力を体感してくれるのです。多くのお客さんが宿泊施設に泊まり、現地の食材を楽しみ、お土産を買って帰ることで経済の循環も生まれます。特に小さな子供たちが修学旅行などで出羽三山を訪れたなら、山々が持つ雄大な自然と荘厳な雰囲気を、大人にはない感性で感じ、大人になった後も忘れられない思い出として持っているかもしれません。マス・ツーリズムにおいて、多くの観光客を受け入れることは問題の本質ではありません。観光客が増えるために、観光資源たる環境をマネジメントできなくなることが問題なのです。

羽黒山周辺で行われる子供向け山伏修行体験の様子(主催者が撮影)。
多くの子供達が祈りの文化に触れる、地域にとっても
子供達にとっても貴重な体験です。

では、出羽三山本来の姿を守るためには、どういった取り組みが必要なのでしょうか?外部の人間である私個人の意見ですが、サステナブル・ツーリズムとは何かという定義を地域で定めた上で、地域ぐるみで観光客に提供する観光プログラムの存在が重要ではないでしょうか?

マス・ツーリズムは経済効果の観点から、観光地にとって重要な観光形態であることは間違いありません。反面、集客と利益に傾倒したマス・ツーリズムは長期的な観点で観光地にダメージを与えていくことになります。その点、世界中で導入が進むサステナブル・ツーリズムは長期にわたり、観光資源と観光による利益の両立が可能ですが、個々で実践するために越えなければいけないハードルがとても多いのが現状です。そのため、出羽三山では「出羽三山門前町プロジェクト」を立ち上げ、少数の観光客が長期間滞在し、山伏修行など様々な体験を提供するサステナブル・ツーリズムのプログラムを提供しています。

出羽三山門前町プロジェクトを紹介する記事。
めぐるん社についても合わせて紹介されています!
(©︎Cradle)

長期間のサステナブル・ツーリズムのプログラムを提供することで、長期に渡り出羽三山の文化価値の提供が可能になり、出羽三山が世界や後世に伝えられていくことに繋がります。現在はマス・ツーリズムが主流となっている出羽三山ですが、地域関係者の協力によってサステナブル・ツーリズムのプログラムを少しづつ提供していくことにより、これまで発信できなかった出羽三山の魅力を観光客に伝えることができ、出羽三山が「住んでよし」「訪れてよし」の地域になっていくと、一個人の意見として思います。皆さんは、どうお考えですか?

まとめ

出羽三山は、古来より自然と共にある生き方が受け継がれてきた稀有な土地。脈々と世代を超えて受け継がれてきた文化や生活には、今日の私たちが「サステナブル」という言葉だけでは言い表せない、重厚な魅力が詰まっています。持続可能な観光が世界中で注目されてきた今こそ、出羽三山を世界に発信する絶好機。出羽三山の輪を日本に、世界に広げていくために、めぐるん社は持続可能な観光に今後も取り組んでいきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今後とも出羽三山やめぐるん社に関する情報を発信していきます。
興味を持っていただけたら幸いです。

それでは、また次の記事でお会いできることを楽しみにしています。

参考文献

持続可能な観光の定義(国連世界観光機関)
https://unwto-ap.org/why/tourism-definition/

筆者作成のノート
(Sustainable Tourism: rethinking the future from Wageningen University and Research)

Why Become a Certified destination? (Global Sustainable Tourism Council)
https://www.gstcouncil.org/certification/become-certified-destination/

【徹底解説】観光業界がなぜ「持続可能な観光」に取り組むべきか、その理由を考える。-Vol.2
(高山、2020)
https://yamatogokoro.jp/report/47092/




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