満たしてよ

昔と今と未来。
それぞれを箱に詰めたとする。

昔の箱には当然たくさんの記憶と経験がぎっしりと詰まっていてずっしりとした重みがある。
辛い記憶は時間と共に軽くなっていく。
幸せな記憶もほんの少しずつ薄れ忘れる。

今の箱には最低限の生活。
飯を食って寝て少しの贅沢の為に働く今。
責任や人間関係のしがらみなんてものはとうに投げ捨ててしまったから大した重みなんてない。
将来への漠然とした不安と少しの希望。
過去への未練と懐かしさ。

未来の箱には、何もなかった。
箱自体の重みすら感じられないほどに。
夢も希望もやりたい事も何もないのだからこの箱には何も詰められなかったんだ。
確約された未来もまた私にはない。

私は空っぽだった。
重い過去の箱一つを背負ってふらふら。
その日暮らしの自由気ままな生活。
不安も希望も焦りも多少はある。
それでも腹が減ったら飯を食う。眠る。
たったそれだけ。

生きることにも死ぬことにも興味がない。
その時々の欲求に従い目の前の事だけを片付けて昔の箱にしまってゆく作業。
多少の変化はあれども人生が変わるほどの出来事なんてない。

端から見れば寂しくて退屈な人生だ。
それでも私は幸せだった。
そんな自分を愛していた。

自分本位の人生で何が悪い。
それが本来の生き方ではないのか。

そう思っている。
今も昔も、きっとこの先も。

たとえひとりぼっちでも。
幸せそうな家族を羨んでいても。
それでいいと思っていたんだ。

あなたが泣くまでは。

私は自分を大切にしていたつもりだよ。
こんな私でも十二分に幸せだよ。
だから、泣かないでよ。

人より沢山の障害を抱えてきたと思う。
色んなものを見て聞いて体験してきた。
辛いことも山ほどあった。
死にたくて仕方がない日もあった。

それでも死ねなかった。
だから私が今ここにいる。

自分より他人を優先してしまう。
人の顔色ばかり伺ってしまう。
頼みごとを断れないこともしょっちゅう。

他人本位かもしれない。

けれどそれらはすべて無意識。
たとえそれで嫌な思いをしても平気さ。
食って寝て起きたら全部過去のこと。

私は傷つくことを極端に恐れる。
怒られることを避けている。
裏切られる悲しみから逃げている。
嫌なことからはすべて逃げてきた。

その結果が今の私なんだ。
今が私の人生で1番幸せなんだ。

もっと幸せな生き方もあるだろう。
もっともっと傷付かない道もあるだろう。
誰かと共に歩む人生もあるだろう。

でも全部私一人じゃだめなんだ。
体が動かなくなって最初の一歩すら戸惑う。
このままずっと同じ事を繰り返すだろう。

だからさ、ちょっとだけ手伝ってよ。
私が迷っていたら手を引いて。
倒れそうならぐいっと押し上げて。
躓きそうなら肩を貸して。
泣きたくなったら胸を貸して。

あなたがいれば出来そうなんだ。
ほんの少しだけ未来の箱が重くなったんだ。
今の箱も背負う気になったんだ。

私一人で全部の箱を背負いきれなくなったら少しだけ持ってよ。
あなたの箱がいっぱいになったら私に半分分けてよ。
二人で背負えばきっと重くないよ。

あなたと私でさ、生きていこうよ。
いつか終わりが来るその時まで。

ちょっとずつでいいからさ。
二人で歩いていこう。

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