決めたこと

ある日ふと気付いてしまった。

もしかして私、文才ないんじゃ?

薄々感じてはいたけど。
でもやっぱり書くことは好き。

私は自分が普通じゃないと思っていた。
今でも少しはそう思っているかも。

でも、私はどこにでもいる普通の人間だった。

飛び抜けて頭がいいわけじゃない。
運動は人並み以下。
絵も字も特別上手くはない。
家事はできるけどできる人は沢山いる。
ハンドメイドだって本職に出来る程の腕はない。

何か秀でたものがあるわけでもない。
普通に悩み怒り笑い生きる普通の人間。
それがなんだか少し可笑しくて嬉しかった。

あんなに普通になりたいと思っていたのに。
私はもうずっと前から普通だったんだ。

くだらない。けどそれがいい。
普通だからこそ楽しいんだ。

みっともなく地を這って生きる。
他人を見下ろすことも蹴落とすこともしない。
自分だけをただ見つめて進む。
私にはそれしかない。

こないだどこかで見かけた
日本人って普通にこだわるよね
って言葉がなんだか胸にずっしりと沈んでいる。

普通ってなんだろう?なんて思いながら
普通に固執して普通じゃないと嘆いていた。

今になってそれがどんなに馬鹿らしいか気付いた。
普通になりたいと思う事がもう普通なのだから。

私が必死に追い求めていたのは私そのものだった。

大企業の社長でも総理大臣でも大女優でもない。
海賊王を目指してもないし本能寺で自害もしない。
1億数千万人の中のありきたりな一人。
それが私。

だけどそんな普通の人間にだって色々ある。
漠然と将来が不安になったり夢を抱いたりする。
昔の恋や黒歴史を思い出して恥ずかしくなったりする。
地球規模で見れば塵以下の些細な事に日々感情を左右されてあたふたと舞い踊っている。

屋上から見える夜景の奥の方にある高層ビル。
沢山の窓から漏れる明かりの数だけ生活がある。
知らない誰かの普通で普通じゃない人生がある。

小説を書くことは、人間を書くことだ。
ある本に出てきた言葉。

私は人間を書きたい。
ある小説家が言った言葉。

私は彼らと同じようになれるのか。
私に人間を書く資格はあるのか。
文才のない私が書いた小説に需要はあるのか。
面白いと言ってくれる人はいるのか。

そんなの知るわけがない。
やってみないと分からない。
書いてみないと分からない。

だから書く。
何ヶ月かかろうと心が折れかけようと。
誰の目にも留まらなくたって。
いつか必ず書き上げる。

ハンドメイドだってそうだ。
作りたいものが沢山ある。
アイデアは溢れ出て来るのに技術が足りない。
やりたい事が山ほどあるのに。
時間もコストもかかる。
知識だってまだまだ少ない。

でも私はやる。
やりたい事をやって生きるって決めたんだ。
今までにないくらい楽しいんだ。
苦労したってかまわない。

やりたいからやる。
それ以上の理由はいらない。

普通だろうが普通じゃなかろうがどうだっていい。
私は私でそれ以上でもそれ以下でもない。

後悔しない人生なんてない。
けれど少しでも後悔を減らすために今動く。
やらずに後悔するならやって後悔したい。

思い立ったら即行動。
失敗も後悔も腐るほどある。
でもやらなけりゃよかったとは思わない。

あの時家出したから。
あの時学校を辞めたから。
あの時あの人についていったから。

見れた景色があった。
出会えた人がいた。

それと同じくらいの後悔もあった。

あの時もっと上手くやれていたら。
あの時あの店を辞めていなければ。
あの時ちゃんと話し合えていたら。

離れていく人が減ったかな。
その先の景色も見えたかな。

でも、あの時の私がいるから今ここにいる。
夢も目標も好きな事も大事な人達もできた。

過去に戻って今までの後悔を全部なくしたら
きっと全く違う人生になっていただろう。
違う人と恋をして違う仕事をしているだろう。
その方がもしかすると幸せなのかもしれない。
一人で泣く夜もずっと少なくなるかもしれない。

けどもし過去に戻れても私は多分同じ道を選ぶ。

恥ずかしくて死にたくなるような過去も
時々醜くて仕方なくなるこの見た目も
思い出すだけで吐き気がするトラウマも
全部抱えて生きていきたいと思えるから。

涙が出るほど笑い転げたあの日々も
一人で歩いた夜道の景色の数々も
隣で私に笑顔を向けてくれた人達も
この人生だったからこそ出会えたのだから。

どこにでもいる普通の女の子の
怒りや不安や感動や涙のお話。
普通なようで普通じゃないお話。

先生が言ってくれたようにいつか書くよ。

事実は小説よりも奇なり。

私の人生も近くで見れば悲劇でも遠くから見たらきっと喜劇になる。

だから死ぬまでに書いてみよう。
普通の私が書く普通じゃないお話を。

今はまだお話の途中だから。
ちゃんと生きよう。
続きがなくなっちゃわないように。

みっともないくらいが丁度いい。
だってその方が面白いでしょう?

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