死んだ目のピエロ

ここで働きたいと本気で思った会社に転職した。
どの社員も笑顔で元気で楽しそうだった。
明るく賑やかな会社だと思った。

最初の仕事は体力がいるものだったけれど
それすらも楽しいと思えた。
自分の成長に繋がることだって。

けれどやっぱり身体は追いつかなくて
普通に働くことを一年以上していなかったから
たった一日働いただけで身体が悲鳴を上げて
何時間寝ても取れない疲れだけが残った。

ブラック企業の基準なんて知らないけれど
フルコミッションが悪いとも言わないけれど
待遇がいいとはきっと言えないんだろう。

私の教育係みたいな女の人は
大事なことはあんまり教えてくれなくて
一度聞いた話を何度もするからつまらなくて
私はちょっと苦手だな、なんて思ったりした。

他の先輩たちも優しくて面白いけれど
なんだか宗教的な雰囲気を感じてしまう。

意識が高い、と言ってしまえばそれまで。
私がそれに合わない人間なだけかもしれない。
けれど私はそんな些細な違和感を無視できなかった。

自分が社会不適合者なのは重々承知している。
仕事の内容に不満があるわけでもない。

大学でお金と時間をかけて学ぶようなことを
働きながら身につけられるなんて素晴らしいと思う。

でも私は死んだ目の大人になりたくない。

初めて出勤した日の帰り。
電車の窓に映った自分の目は死んでいた。

帰って飯を作り風呂に入る元気もなくて
サラリーマンに混じってラーメンを食べて帰った。
駅から家までのほんの数分すら辛かった。

楽しくなかったわけじゃない。
たくさん話して笑って勉強した。
怖い人は一人もいなかった。
どの人も活気があって夢があった。

そして私はこの人たちのようにはなれないと思った。

ここで活き活きと働ける自信がない。
お面みたいな作り物の笑顔もできない。
人を小馬鹿にしたような態度も取れない。
自分が上に行くために人を使ったりできない。

私は私を押し殺したくない。
そうしないと社会に馴染めないのなら
私は一生社会不適合者のままでいい。

全く同じ人間なんて一人もいないのに
それらを集めて型にはめようとして
はまらないやつは不適合者だなんて
あまりにもくだらない。

社会からはじき出された人たちが
生きていく術を持てないような社会なんて
丸めてぽいって捨てちまえ。

どんな人にだって出来ることはある。
私にだってきっとある。

今の私が何を言ったってきっと伝わらない。
反論されて言い返せる材料もない。

だから誰にも文句を言わせないくらいになってやる。
私を見下したやつ全員見返せるくらいに。

死んだ目の大人にだってなってやるさ。
そんでもう一度目に光が灯るのを見せてやる。

いつかちゃんと息を吹き返すまで。
死んだ目のピエロに化けてやる。


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