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はじめての1人旅

 知らない町、はじめての1人旅、僕は寂しくなった。

 名古屋には深夜についた。宿の予約はしてない。適当にネットカフェにでも泊まればいいって思ってた。ただ長居すると高くつくので、ギリギリまで夜の名古屋を堪能するつもりでいた。

 1月下旬、やや寒いなか、僕は名古屋城まで歩いた。正確には近くの公園まで。ところが暗中が恐ろしく、闇に飲み込まれそうな気分になった……ってカッコよく言ってみるけど、ただ怖かっただけ。丑三つ時に得体の知れない土地に足を踏み入れようとは思えなかった。

 もともと風邪引きだったのを思い出した。くしゃみと鼻水が止まらなかった。さて、はやく寝よう。そう思ったあたりで、胸がモヤがかっているのに気がついた。それが何なのかは、すぐにはわからなかった。

 しかし、しばらく歩いて考えているうちに判明した。先ほどの恐怖と、帰る場所がないという不安、頼れる人がいない寂しさ。そういったものが混ざり合って、大きくなって、僕の心を支配していたのだった。

 はじめての感覚。僕は1人が好きなはずだった。家なんかなくても大丈夫だと思ってた。孤独でも生きていけるつもりだった。だが、いざ現実が迫ってくると、想像にはなかった恐怖感を味わう。リアリティを伴って、身体中にまとわりつく。怖かった。

 早歩きでネットカフェに向かう。どこでもいいから、安心できる環境が欲しかった。そもそも僕はネットカフェも初心者だったので、それすらも心配だった。結果としては快適だったし、その旅行自体も楽しいもだった。やっぱり旅行はいいもんだなーと思って帰った記憶がある。

 4日振りに自宅に帰った。親が出迎え、使い慣れたシャワーを浴び、身体に馴染んだベットで眠る。なんのことはない、見事なまでの日常。なのにその日だけは、これまでにない特別な1日のように感じられた。

 僕はそれまで、安心感という感情を軽視し過ぎていたのかもしれない。

 帰る家があって、あったかいご飯とお風呂があって、一緒にいれる人がいる。それって幸せなんじゃないかなーって思えるようになった。

 小さい旅行だったけど、貴重な気持ちを知れた良い経験だったって、いまさらながら思ったのだった。

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