山田さんが出て行った控室の中は打って変わって静かで、私も何を話したら良いのか分からない…。
頭でさっきの会話がグルグルしていて、成ちゃんの方を見れなかった。
「結構、俺的には頑張った相手だったんだけど、全く相手にされなくってさ。」
成ちゃんが突然話し出す。
「うん。」
やっと私から出た相槌がこれ。
「踏ん張ってみたんだけど、ダメだったね~~~~。」
パッと聞きもう吹っ切れている様にも聞こえる明るさで成ちゃんが言う。
「い、一途じゃん成ちゃん。」
こういう時って、茶化せば良いんだっけ?
分からなくなってきちゃった。
「おう。一途よ俺は。」
聞くとダメージの強い言葉を成ちゃんが発する。
「誰とも付き合った事が無いなんて、思わなかった。」
本当かな?と思いながら疑問に思った事を話してみた。
「え?あははははは(笑)」
成ちゃんは、①それに対して何か答えるでも補足するでもなく、ただわざとらしく笑っただけだった。
休憩が終わった成ちゃんが控室から出ていく時に、
「今日、ラーメン行くか?」
と聞いてきた。
え、2人で?
「うん。行く…。」
2つ返事で私は答えた。
「素直で、よろしい。」
そう言って、成ちゃんは店に戻って行った。
この会話の流れでそのままラーメンに誘われるのって、やっぱり少しは期待しても良いんだろうか?
それともまだ成ちゃんは、花をあげていたその人の事を好きなんだろうか。
だけど、それと同時に成ちゃんの様な明るくて話しも面白くて、背も高くて見た目も良い人が、その年齢まで恋人が出来た事が無い、という事が意外過ぎて、その一途なところが私の心に刺さりまくった。
だけどそれは同時に、それだけその相手の事を好きだという事になるので、まだ今でも成ちゃんがその人を好きだとしたら、こうやってラーメンに誘ってくれたり、夜中にドライブする私はなんなんだろう?
と、考えさせられた。
仕事終わり、着替えてclanを出ると先に上がっていた成ちゃんが車で迎えに来てくれて駐車場で待っていた。
普通に助手席に乗り込む私。
(ああ、木田さんもこういう気持ちなんだろうか。)
『花をあげていたその人』の事を聞いてから、私は少しだけ木田さんに対して変な仲間意識を感じていた。
木田さんにはそんな風に思われてないのは百も承知だけど…。
そして、ドライブがてら成ちゃんの好きなラーメン屋まで行き、そして帰りは少し遠回りしながら帰ってきたけれど、成ちゃんから恋の話しが出てくる事は無かった。
ガンダムが好きだっていう話しと、木田さんの弟(成ちゃんの親友)と高校生の時にやっていた遊びの話しを楽しそうにしていただけで、私から『花をあげていたその人』の話しを出す事も出来ないまま、車は私の家の前に着いた。
「今日もありがとう、成ちゃん。おやすみなさい!」
そう言って降りる。
「おう。おやす…あーーー!」
成ちゃんが挨拶している途中の声が大きくなった瞬間
バタン!!!
私は助手席の扉を閉めた。
成ちゃんは窓を開けて
「だーかーらー、ドアもう少し大人しく閉めなさいって言ってるでしょうに。」
とお父さんの様に私に指摘をした。
「ごめんごめん!また馬鹿力が出た(笑)」
「本当、馬鹿力!(笑)」
そう言って笑った成ちゃんは、顔がくしゃっとなって、優しい顔になった。
②玄関に入る私を確認すると、成ちゃんは手を振りながら車を走らせる。
私は自分の部屋に入ると、今日聞いた話しを何度も反復して、その後一緒にいた成ちゃんの笑顔を思い出して、とても複雑な気持ちになっていた。
でも、もう振られたって言ってるし、今日だって私を誘ってくれたし…。
どうすれば良いんだろう?
--------------------------------------解説--------------------------------------
①それに対して何か答えるでも補足するでもなく、ただわざとらしく笑っただけだった。
└質問に答えない人、答えない事、というのはたまにあると思います。
聞いたことに答えない人にはどの様な心理があるのでしょうか?
・聞こえなかった
・質問の意味が分からなかった
・答えるのが恥ずかしい
・言いたくないので誤魔化したい
・説明するのが面倒
概ねこのいずれかに含まれます。
②玄関に入る私を確認すると、成ちゃんは手を振りながら車を走らせる。
└車で家の前まで送っているとはいえ、主人公と君嶋が一緒にドライブするのは基本的に深夜なので、しっかり玄関まで入るのを見届けてから車を出すようにしているのでしょう。
これは大変紳士的な行動であり、優しい人がする事です。
当たり前の様に見える方もいるかもしれませんが、意外と出来る人は多くないはずなので、こういう点を注意して意中の相手と接してみましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?