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未来の食・まちづくりには「循環」が必要久比食卓会議 前編

春を感じる穏やかな3月上旬、私たちは広島県呉市豊町の大崎下島・久比(くび)地区を訪れました。今回の食卓会議もめぐるめく事務局に加えて、全国各地から多領域の食農に関わるメンバー、計7名が現地に集いました。

食卓会議とは…地域へのフィールドツアーや交流会を通じて、地域間の学び合いを生み出すプログラムです。地域内だけではなく、地域外からの多様なプレイヤーの関わりが、地域内に新たな食と農のチャレンジを生み出す循環につながることを目指しています。

久比地区は広島駅から車で1時間半程度に位置します。ピーク時には2,000人いた人口も減り、現在の久比地区に住んでいるのは約450人。海だけでなく山にも囲まれた自然豊かな島で、山の斜面に目を向けるとみかんやレモンなどのたくさんの柑橘が植わっています。

そんな久比地区でナオライ株式会社(以下、ナオライ)として酒造りに取り組む三宅紘一郎さんが案内人となりフィールドツアーを実施しました。三宅さんは「くらしを、自分たちの手に取り戻す」をテーマにさまざまなプロジェクトを推進する一般社団法人まめな(以下、まめな)の運営にも携わっています。


今回のフィールドツアーのテーマは「循環」。三宅さんは久比地区でレモンに出会ってから「循環」を強く意識し始めたそう。フィールドツアーでは、三宅さんの活動拠点を巡りながら、循環を大切にするようになった背景を伺いました。

<案内人・三宅紘一郎さん>

 

案内人・「ナオライ」「まめな」代表の三宅さん

まずは案内人・三宅さんのご紹介。広島県・呉市出身の三宅さんは、地域に根ざしたお酒のブランドをつくろうと久比地区でナオライ株式会社を起業。その際に出会ったのが久比地区にある離島・三角(みかど)島のレモンでした。このレモンを使って生まれたのが、ナオライの最初のブランド「MIKADO LEMON」です。

<久比地区本島から三角島には一日5本の往復フェリーが出ています。>

三角島のレモンに出会いお酒づくりをするなかで、「ブランドと産地の結びつきを強くしたい」という思いから自身でもオーガニックレモン栽培を始めた三宅さん。なかでも「循環」を意識するきっかけとなったのは、レモンの有機農法に取り組む梶岡秀さんの存在でした。レモン栽培や土づくりについて梶岡さんから学ぶうちに、土壌環境などの自然との調和や「循環」を自然に意識するようになったそうです。

私たちも梶岡さんの畑にお邪魔させていただき、レモンの収穫体験を行いました。

<畑でお話ししてくださっている梶岡秀さん>

「私がやっているのは、なまけもの農法なんです」

梶岡さんが考える有機農法は、「自然にとって、いい環境をつくってあげる」こと。実際の自然環境に近い状況をつくるため、雑草が生えてきても抜いたりはしません。雑草は足でふみ倒し、土に養分を戻す。自然が当たり前にやってきた状態に時間をかけて、農地を戻していっているそうです。 

まず、無農薬の「有機農法」がおこなわれている梶岡さんの農園の土を見せてもらいました。サラサラではなくコロコロとした粒状。これが有機農法での土の特徴だそうで、梶岡さんは「土がちゃんと息を吸うことができる状態」だと話します。

<コロコロした空気を含んだ土>


<レモンの収穫を体験しました。斜面で一つ一つ手で取るのは想像以上に大変です。>

 ナオライのこだわりは「全て、捨てない」こと。

農薬を使わずに育てられたオーガニックレモンは、市場の規格に合わず卸せないものも多いそう。それらを買い取るのが、三宅さんが経営する「ナオライ」です。お酒に加工することで、規格が合わなくても買い取ることができるのです。

実際にレモンが活用される過程を体験するため、私たちは畑を後にし、ナオライ久比醸造所に伺いました。レモンを皮、わた、身の3つに切り分けて分解していきます。ナオライのお酒に使われるレモンも全て分解して、捨てる部分はないそうです。

 皮やわたの部分はスムージーに、果汁はストレートでいただきました。スムージーはさっぱりとした甘みが感じられる優しい味に、ストレートの果汁は酸っぱさよりも「旨味」が強く感じられました。皮まで食べられるオーガニックレモンをまるごと堪能することができ、改めて「捨てるものがない」と感じました。
形が悪いから、捨てる。普段は食べない部分だから、捨てる。
無駄をなくし、「全部循環させる」ことが三宅さんのお酒づくりの特徴です。

循環からヒントをもらってできたプロダクト”浄酎”

オーガニックレモンを栽培しながら「循環」を意識する中で、三宅さんが思いついたのが「浄酎」というプロダクトです。基本的に、日本酒には「時間が経つと劣化してしまう性質」があります。日本酒の需要が低下する中、売れずに残ったお酒が劣化していくことをなんとかしたいという想いがありました。

日本酒の長期保存が難しいのは、水分含有量が多いことが理由です。そこで、三宅さんは「長期間保存ができて、時間が経つほど価値が上がっていくウイスキーのような日本酒」を生み出しました。極限まで熱を加えず蒸留することで成分を抽出し、長期間保存を実現した「浄留」という技術です。この技術により、あらゆる日本酒を長期間保存できる「浄酎」として時間経過を楽しめるお酒に生まれ変わらせることを実現しました。

レモン栽培や加工の過程での「全部、捨てない」循環の考え方が、この構想を思いつくヒントになったそう。蒸留時に出てくる水分すらも捨てずに活用するそうです。「浄留」はフードテックの分野でも注目されています。

 

<浄酎。一番左のものは三角島のレモンが使われています。>

地域に集まる「くらしを取り戻したい」人たち 

今回のツアーでは、三宅さんが共同代表を務める「まめな」が運営する宿に泊まりました。旧病院の母屋の2階部分と病棟を宿泊できる個室にリノベーションしてあります。

<母家の1階は「まめな食堂」という毎週日曜日から火曜日までひらく食堂に。お昼ご飯はこちらでいただきました>

『くらしを、自分たちの手に取り戻す』ことをテーマに活動する「まめな」。地域の方から譲り受けた建物をリノベーションし、現在、久比地区に3つの拠点を持っています。

ひとつは、私たちが宿泊した旧病院。「まめな食堂」などの地域内外の人が集う場所です。旧病院では宿泊したあと、使った後のシーツの洗濯を自分たちで行ったり、ご飯の準備もできる限り手を動かすことになっています。日常で何気なく行っている家事を、改めて意識することで、より生活を豊かに感じられるから不思議です。

ふたつめは「あいだす」という『あるものから始まる』をコンセプトにした学びの施設。大人も子どもも一緒に、あるものを活かしてものづくりをしてみたり、遊んだり、思い思いに過ごします。まめなで活動する移住者が、自身の活動として2023年に起業しました。

 

<Bar邂逅>

そして3つめは、1階を不定期でオープンするバー「Bar 邂逅」、2階を図書室に作り変えた蔵です。

まめながきっかけとなった、久比地区には、現在若い世代の移住や起業は他にも。「Bar 邂逅」を運営する大学生の後東さんは、広島市から通ううちにまめなで自分のやりたいことを見つけ、バーを開きました。卒業後は久比地区に移住し、本格的にバーを始めるそうです。

 

「介護がいらない世界」を目指す医療介護ベンチャー「Nurse&Craft」も、まめなの活動をきっかけに生まれた会社です。まめながあることで、久比地区には「くらしを自分たちの手に取り戻そう」とする人たちが集まる土壌ができています。

「循環」は目の前のくらしのなかに

 今回のフィールドツアーのごはんを担当してくれたのは、まめなの竹田麻里さん。自然農を実践されている麻里さんの作る食卓には、カラスノエンドウなどの草花や季節の野菜を使ってつくられた料理が並びました。生産者の顔が見えない無機質なくらしに慣れてしまった私たちにとって、つくった人がすぐそばにいる「くらしの手ざわり感」が「くらしを取り戻す」ということなのかもしれないと感じました。

<朝日を浴びながら食べる朝食。美味しいね、豊かだね、と口々に話し合いました。>

「循環ってなんだろう」と、考えるきっかけになったフィールドツアー。食も、くらしも、「自然とそこにあるもの」を見つめなおし、自分たちの手でより良い状態にしていくことが「循環」につながっているように感じます。

そんな、「循環」している状態がすぐそばにある久比地区。レモンを始めとした農作物が捨てられることなく未来につながったり、まち全体がリノベーションされながら新たな役割を与えられていたり。くらしのあり方が感じられるフィールドツアーとなりました。

今回の食卓会議の会場

一般社団法人まめな
広島県呉市豊町久比2132
行ってみたいこの地域に関わってみたいという方はこちらよりお問い合わせください。 

フィールドツアーの後に開催された地域内外の交流会については、後日記事を公開予定です。お楽しみに!

 

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