メガテリウム桃子

10秒くらいで読める小説をかいています。

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記事一覧

10秒小説『枯草の根』#7-彼との関係-

2時間ほど居ただろうか。 帰りの車の中、私はさっきまでの出来事を一つ一つ頭の中で整理していた。 彼氏でもない、インターネットの出会い系サイトで知り合った人との肌の…

10秒小説『枯草の根』#6-彼-

会うまではどんな顔なのか、どんな雰囲気の人なのか、全く分からなかったし想像もつかなかった。 会うまでのメールのやり取りも、約束の日の時間や目印になる服装の確認く…

10秒小説『枯草の根』#5-アタリかハズレか-

『平日の昼間に、非日常を過ごしませんか?』 これが彼から最初にもらったメッセージだった。 このたった一行のメッセージに心惹かれた。 私と彼との出会いは、インターネ…

10秒小説『枯草の根』#4-できる男-

まだ少しぼーっとする頭を起こし、部屋を見渡した。 なにも、ないな。 この8畳一間の古いアパートには、キッチンとトイレ、お風呂以外には何も無い。 あ、あの人もいない…

10秒小説『枯草の根』#3-何も無い部屋-

蒸し暑くって、目が覚めた。 気がついたら寝汗びっしょりで、なんだか気持ち悪い。 畳の上で寝たもんだから、身体中が痛い。 お布団って、結構大事だったんだな。 当たり前…

10秒小説『枯草の根』#2-向け合う背中-

木造二階建ての古いアパート。 1階に3室、2階に3室ある、とても古くて小さなアパートだ。 階段を上がる彼の足元を見ながら2階へ上がる。 少し錆び付いた鉄の階段はカツカツ…

10秒小説『枯草の根』#1-名前も知らない-

まだ少し夜は肌寒い。 薄手のパーカーを羽織り、リュックサックと旅行カバンがひとつ。 アパートの前に私は立っている。 急いで家を出てきたもんだから、色々なものを忘れ…

10秒小説『枯草の根』#7-彼との関係-

2時間ほど居ただろうか。
帰りの車の中、私はさっきまでの出来事を一つ一つ頭の中で整理していた。
彼氏でもない、インターネットの出会い系サイトで知り合った人との肌の触れ合いは、なんとも言えない不思議な感覚だった。
普通なら、付き合った人との初めてのセックスは普段見ない表情や仕草、そういう時でしかしない息遣いなどを五感で感じて新鮮な気持ちになったりするものだ。
でも、この彼のことは普段の様子も全く分か

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10秒小説『枯草の根』#6-彼-

会うまではどんな顔なのか、どんな雰囲気の人なのか、全く分からなかったし想像もつかなかった。
会うまでのメールのやり取りも、約束の日の時間や目印になる服装の確認くらいしかしなかったから。
約束の場所は自宅近くのコンビニにした。
彼は車で来ると言った。
約束の時間、コンビニの前に彼は立っていた。コンビニの前でタバコを吸っていた彼は、私と目が合うと会釈をしたから、すぐにメールの彼だと分かった。
濃紺のス

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10秒小説『枯草の根』#5-アタリかハズレか-

『平日の昼間に、非日常を過ごしませんか?』
これが彼から最初にもらったメッセージだった。
このたった一行のメッセージに心惹かれた。
私と彼との出会いは、インターネット上。
いわゆる、出会い系ってやつ。
毎日、同じ時間に起きて、同じ電車に乗って、同じ場所へ仕事に行って、同じ人と会って、同じ時間に帰って、また同じ電車に乗って家に帰る。
そんな毎日が嫌で、刺激が欲しくて、出会い系サイトに手を出した。

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10秒小説『枯草の根』#4-できる男-

まだ少しぼーっとする頭を起こし、部屋を見渡した。
なにも、ないな。
この8畳一間の古いアパートには、キッチンとトイレ、お風呂以外には何も無い。
あ、あの人もいない。
昨夜からここで一緒に暮らすことになったあの人。
ふと視線を落とすと、畳の上に置かれたメモをみつけた。
「仕事に行ってきます。お昼、よかったら使って」
メモと一緒に5000円札が1枚、置かれている。
なかなか気遣いのできる男だな。

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10秒小説『枯草の根』#3-何も無い部屋-

蒸し暑くって、目が覚めた。
気がついたら寝汗びっしょりで、なんだか気持ち悪い。
畳の上で寝たもんだから、身体中が痛い。
お布団って、結構大事だったんだな。
当たり前にあるものが無いと、有難味がよくわかる。
いつもなら洗いたての気持ちのいいお布団で寝て、朝起きたらご飯が用意されていて、カーテンだってちゃんとついていて。
ここは布団もないし、カーテンもまだない。
朝食どころか、昼も夜も、ご飯を作ってく

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10秒小説『枯草の根』#2-向け合う背中-

木造二階建ての古いアパート。
1階に3室、2階に3室ある、とても古くて小さなアパートだ。
階段を上がる彼の足元を見ながら2階へ上がる。
少し錆び付いた鉄の階段はカツカツと足音を立てて、静かな夜を邪魔するようで耳障りだ。
2階の一番奥の扉の前で彼が立ち止まる。
303号、室か…。
彼は鍵を開けながらこちらをチラリと見る。
なにか合図をするように。

この部屋が今夜から私たちの住むところ。
今日は色々

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10秒小説『枯草の根』#1-名前も知らない-

まだ少し夜は肌寒い。
薄手のパーカーを羽織り、リュックサックと旅行カバンがひとつ。
アパートの前に私は立っている。
急いで家を出てきたもんだから、色々なものを忘れている気がするがどうだっていい。

隣に立つ彼も、リュックサックに旅行カバンがひとつ。
仕事用のカバンも持ってきたようだ。
お前もリュックかよ。
心の中でツッこんだ。
こんな状況でも頭は冷静でいられるらしい。
私は今夜から、この隣に立つ彼

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