10秒小説『枯草の根』#1-名前も知らない-

まだ少し夜は肌寒い。
薄手のパーカーを羽織り、リュックサックと旅行カバンがひとつ。
アパートの前に私は立っている。
急いで家を出てきたもんだから、色々なものを忘れている気がするがどうだっていい。

隣に立つ彼も、リュックサックに旅行カバンがひとつ。
仕事用のカバンも持ってきたようだ。
お前もリュックかよ。
心の中でツッこんだ。
こんな状況でも頭は冷静でいられるらしい。
私は今夜から、この隣に立つ彼と暮らす。
まだ、お互いの名前も知らないのに。

#小説 #日常 #10秒小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?