10秒小説『枯草の根』#2-向け合う背中-

木造二階建ての古いアパート。
1階に3室、2階に3室ある、とても古くて小さなアパートだ。
階段を上がる彼の足元を見ながら2階へ上がる。
少し錆び付いた鉄の階段はカツカツと足音を立てて、静かな夜を邪魔するようで耳障りだ。
2階の一番奥の扉の前で彼が立ち止まる。
303号、室か…。
彼は鍵を開けながらこちらをチラリと見る。
なにか合図をするように。

この部屋が今夜から私たちの住むところ。
今日は色々あって、なんだか疲れちゃったな。
カーテンもない、布団もない、何も無い8畳一間の畳の上で、私たちは背中を向けあって少し離れて横になった。
月明かりが眩しい。
憎たらしいくらい眩しく感じる。
少し空いた窓からは、夜の風が心に刺さる。
まだ少し夜は肌寒い。

#小説 #日常 #10秒小説

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