10秒小説『枯草の根』#6-彼-
会うまではどんな顔なのか、どんな雰囲気の人なのか、全く分からなかったし想像もつかなかった。
会うまでのメールのやり取りも、約束の日の時間や目印になる服装の確認くらいしかしなかったから。
約束の場所は自宅近くのコンビニにした。
彼は車で来ると言った。
約束の時間、コンビニの前に彼は立っていた。コンビニの前でタバコを吸っていた彼は、私と目が合うと会釈をしたから、すぐにメールの彼だと分かった。
濃紺のスーツに白いワイシャツ。
ライトブルーとネイビーのストライプのネクタイ。
午後のまだ明るい昼間に、濃紺のスーツは似合わない。
身長は180センチくらいかな。
見上げるほど背が高い。
少し日に焼けた肌が健康的に見えた。
でも、とても丁寧で大人しい印象を持った。
私に気づくとすぐにタバコの火を消して、「じゃあ、行こうか。」と、二人で車に乗り込んだ。
なんとなく助手席に座るのは違う気がして、後部座席に座った。
他愛もない会話が緊張感を和らげていく。
こんなに穏やかな人だったんだ。
ほとんどメールでもプライベートな会話をしなかったから、一瞬一瞬が新しい発見でいっぱいだ。
彼は何度も後ろを振り返り、「本当にいいの?」と聞いてきた。
私は妙に冷静で、はい、大丈夫です。とだけ答えた。
車は15分ほど走り、ラブホテルのカーテンを押し上げていく。
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