10秒小説『枯草の根』#4-できる男-

まだ少しぼーっとする頭を起こし、部屋を見渡した。
なにも、ないな。
この8畳一間の古いアパートには、キッチンとトイレ、お風呂以外には何も無い。
あ、あの人もいない。
昨夜からここで一緒に暮らすことになったあの人。
ふと視線を落とすと、畳の上に置かれたメモをみつけた。
「仕事に行ってきます。お昼、よかったら使って」
メモと一緒に5000円札が1枚、置かれている。
なかなか気遣いのできる男だな。
彼のことは何も知らないから、どういう時にどういう行動を取るのかさえ分からない。
今現時点で知っているのは、お金を置いて出掛けられる気遣いができることと、昼間に仕事をしていることと、昼間に仕事を抜け出せる仕事をしていること。

#小説 #日常 #10秒小説

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