🌑しずかな夜
田んぼに水が張られるころ、田舎の夜は蛙の声で埋めつくされる。
あちこちで田植えが始まると、結婚シーズンが終わりに差し掛かった蛙たちの声は、次第に陰をひそめ、
1年でもっとも日の長い今月、卵から孵化したオタマジャクシたちが、植えられた苗の周りをつるつると泳いでいくのを見かけるようになる。
オタマジャクシが多いぶん、カエルは少ない。早くに孵化したカエルたちなのか、お相手がいないまま田植えを迎えたカエルたちなのか、細々と声は聞こえるものの、
セミもまだ孵らないし、カヤキリやクサキリといった冬越しするキリギリスたちの声(羽を擦る音)は低周波なので、ほとんど響かない。
そのため、6月半ば、あとすこしで夏至を迎える今の時期は、「田舎の夏の夜」としてはかなり静か。
ときおり、霧笛が聞こえる。
ボォーッ という低い音を、埼玉にいた頃も、都会にいた頃も聞いたことがなかった。
港町に住んでいる、という実感が沸く。
車はほとんど通らない。
ときおり、バイクがばりばりと音を立てて走っていく。
真夏に増える、救急車や消防車のサイレンも、今の時期はほとんど鳴らない。
昼間は30度を越えるほど暑くなっても、ひんやりと涼しい夜は、
つらつらと物思いにふけり、文章をしたためる。
※井上たくみさん、美しい夏の星座と天の川の写真をお借りしました。ありがとうございます。
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