#11 読書で世界一周 |どうしようもない男たちによる北欧史 〜デンマーク編〜
「読書で世界一周」は、様々な国の文学作品を読み繋いでいくことで、世界一周を成し遂げようという試みである。
前回は”スカンディナヴィア半島編”最終回として、ノルウェーを訪れた。今回は、長かった北欧旅も残すところ1カ国、デンマークを旅する。
私が選んだのは、ヨハネス・V・イェンセンの『王の没落』という小説。さて、今回はどんな旅になるだろう。
イェンセン|王の没落
著者のヨハネス・V・イェンセンは、1873年生まれ、デンマーク出身の作家。20世紀デンマークで最も偉大な作家とも評される。
一貫した「神話」のイメージを文学に取り入れることが特徴で、1944年にノーベル文学賞を受賞している。
本作『王の没落』は、15世紀末から16世紀初頭にかけての北欧を舞台にした歴史小説である。今回は、中世のデンマークとスウェーデンを旅することとなった。
1513年に即位したデンマーク国王・クリスチャン2世は、スウェーデンを攻略し、自ら王として即位。その際、スウェーデン有力者を大量処刑する「ストックホルムの血浴」という悪政を行う。
これによって北欧諸国間の平和は瓦解。やがて、王は反乱勢力によって追放され、没落の一途を辿る。こうした歴史上の出来事が、「春の死」「大いなる夏」「冬」の3部構成で描かれている。
本作の主人公は、冒頭は学生、のちに王国の傭兵となるミッケル・チョイアセン。彼の破滅的な人生は、国王・クリスチャン2世、並びに当時の北欧情勢のデカダンスを象徴して描かれている。
ミッケルの人生は、恋愛関係の嫉妬によって没落していく。相手方の男性にも相応に罪はあるが、我を忘れて強姦や殺人を犯し、悪事を心に秘め、絶望を抱えながら死を迎える。
基本的にその他の男性陣も、どうしようもない退廃的な人物ばかり描かれている。あまりに節操がなく、直感に従いすぎ……かと思えば、優柔不断で好機を逃すことも多い。
「すべての小説に必ずひとりはツッコミ待ちのボケ要員がいる」というのが私の持論だが、『王の没落』では、全男性キャストがボケ要員だった。
どうしようもない歴史のうねりの中で、どうしようもない男どもが、どうしようもない言動をする小説である。
例えば、全盛期のクリスチャン2世のもとで伝令騎士として仕えるアクセルは、驚きの行動を取って読者をひっくり返らせる。
村の富農の娘・インゲとめでたく婚約した彼は、そのわずか2日後にかつての恋人が恋しくなり、スウェーデンからデンマークへと馬を走らせる。
その道中で泊めてもらった木こりの家で、マグダレーネという娘と恋仲になり、なんとそのまま婿養子に。しかしその生活も長くは続かず、かつてデンマークで見かけた羊飼いの女性に思いを馳せ、黙って家を去ってしまう。
この間、たった数ページ。一体どれだけ心移りすれば気が済むのか。
こうした不安定な心変わりは、そのまま不安定な当時の北欧情勢と重ね合わせられる。著者イェンセンは、歴史と創作を巧みに交錯させ、どこか統一感のある読み心地の小説に仕立てている。
このように、終始どうしようもない男性陣にツッコミっぱなしの読書だったが、全体的に北欧の雰囲気が感じられ、北欧旅の最後にふさわしい作品だったと思う。
『王の没落』は「20世紀最高のデンマーク小説」とも称されており、その評価が妥当かは正直よくわからなかったが、確かに歴史・神話・創作が融け合う作風は、面白いと感じた。
「読書で世界一周」、11カ国目のデンマークを踏破。次の国へ向かおう。
12カ国目は、ドイツへと歩みを進める。果たして、どんな作品に出会えるのだろうか。
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