見出し画像

思い出のカフェについて 【世界カフェ紀行】

先日神保町をぶらぶら歩いていて、『世界カフェ紀行 5分で巡る50の想い出』という、なんとも面白そうな本に出会った。

今回のnoteは、本書を読んだことに端を発し、私の思い出のカフェについて、記憶の糸を手繰り寄せていったものである。つまるところ、雑記である。


『世界カフェ紀行 5分で巡る50の想い出』は、中公文庫から出版されている、世界各地のカフェの思い出について書かれたエッセイ集だ。

珈琲、紅茶、ぽかぽかココアにご褒美ビール。世界中どこでも、カフェには誰かの特別な想い出がある——。自宅で、電車で、休憩中に、読めばほっこり旅気分。作家、学者に映画監督まで、各界著名人が寄稿するBunkamuraの名物誌『ドゥ マゴ通信』から生まれた、香気立ち上るカフェ・エッセイ全50篇。

あらすじ

各界の著名人たちが、留学先や旅先で通ったカフェについて、楽しそうに思い出話を語っている。何気ないカフェの風景、現地の人たちとの交流に、こちらも楽しくなってくる。

カフェは、その土地の生活・文化に密着した場所である。したがって、本書に収められているエッセイを読んでいると、世界各国の、その土地の空気が感じられる。まるで旅をしているような気分になれるので、おすすめだ。



思い出のカフェ”Scuderia”

『世界カフェ紀行 5分で巡る50の想い出』を読んでいて、私の頭の中に、思い出のカフェがフラッシュバックしてきた。


私は大学3年から4年にかけて、イタリアボローニャという街に留学していた。欧州最古の大学と言われるボローニャ大学があり、旧市街エリア全体が大学と一体化しているかのような、独特な街だった。

そのため、ボローニャには、世界中から集まった学生が多く生活しており、彼らが集うためのカフェもたくさんあった。


実はイタリアには、私たちが「カフェ」と聞いて思い浮かべるような、テーブル席でゆっくりコーヒーを楽しめるお店は少ない。「バール」と呼ばれる、カウンターのみが設置された、小規模なお店が一般的だ。

それでも、大学都市ボローニャには、学生が休憩や勉強をすることができるテーブル席付きのカフェが、比較的たくさんあった。今回お話しするカフェも、その中のひとつだ。


私にとっての思い出のカフェは、旧市街エリアの中心部、大学敷地内のヴェルディ広場にあった「Scuderia」である。「スクデリア」と読む。

Scuderiaは、ほとんどボローニャ大学の学生のためのカフェ兼ダイニングのようなお店だった。常に勉強や談笑をしている学生で賑わっており、まさに学生たちの憩いの場だった。

年齢も国籍もバラバラの学生がScuderiaに集まり、自然と交流が生まれていた。私にも、このカフェで話したことがきっかけで、知り合った友人がいた。


Scuderiaは、少し変わった内装をしていた。壁に向かって3〜4段の大きな段差が設けられており、そこがテーブル兼座席になっているのだ。お店の中に、小高い丘があるような感じである。

利用者は、その段差に好きなように腰掛けてコーヒーを飲む。高低差が生じるため、下段に座る人は、上段の人の靴についた泥が自分のコーヒーに入らないように気を配らなければならない。

そしてなんと、最上段から一気に最下段に降りるための、滑り台も設置されていた。当時の写真を見返したのだが、滑り台の写真は残っておらず、ここでお見せできないのが残念である。


何よりも良かったのは、ボローニャ大学の学生証を提示すると、ドリンクやフードが割引になることだった。私は当時、貧乏留学生だったこともあり、これが理由でほぼ毎日Scuderiaを訪れていた。

エスプレッソやカプチーノ、クロワッサンなどのメニューを、他所よりも数10セントほど安く買うことができた。しかも味も悪くない。本当に、Scuderiaにはお世話になった。


思い返せば、私のイタリア留学の思い出の大部分が、ここScuderiaとともにあったような気がする。

イタリア映画史の授業の口頭試問に向けた地獄の勉強も、食文化史の分厚すぎて絶望した教科書の通読も、友人たちとのくだらない談笑も、Scuderiaとともにあった。

当時は毎日通っていたため、特別感を感じることはなくなっていたけれど、今思い返してみると、自分にとってScuderiaは大切な場所だったのだと気づいた。

叶うことならもう一度、最上段のあの席で、なみなみとと注がれたカプチーノを飲みたい。



↓このnoteを気に入ってくださった方は、ぜひこちらもお読みください!

↓おすすめ記事です!次の連休は、ブックホテルでゆっくりと。

↓本に関するおすすめ記事をまとめています。

↓読書会のPodcast「本の海を泳ぐ」を配信しています。

↓マシュマロでご意見、ご質問を募集しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?