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高速授業と形成的評価


教科書通りの授業をしてませんか

 これを読んでいる多くの先生は、授業の進め方を「教科書通り」にしていることだと思います。教科書に付属の指導書には1時間あたりに進めるべき授業内容というものが記載されています。それに沿って授業をすれば教科書会社の計画通りに学習を進めることができます。

 これのメリットとしては、年間の学習の見通しがなくても年度内に学習をしっかりと終えることができる、ということでしょうか。数年前には高校で未履修の問題が話題になりましたが、日本の教育は履修したかどうか、つまり「習ったかどうか」については神経質になりがちです。

「学び残し」に怯える先生

 小学校でもこの傾向は見られます。なぜなら、学校の学習は「系統立てて」学ぶことができるように考えられているからです。前年度に学んだ内容を受けて、それの発展的な内容を学習します。そうして、学年が上がるごとに学習の難易度が上がっていくため、仮に前年度に「学び残し」があった場合に、次年度の学習に影響が出ると考えられているからです。

 このような考えがあることから、現場には「計画通りに学習を進める」ということに対しては気を遣うことになるのです。本校でも毎週末の学年の打ち合わせのメインテーマは「学習進度の確認」がほとんどです。しかし、カリキュラムマネジメントが叫ばれている昨今、教科書会社が立てた計画通りに学習を粛々と進めることは、その趣旨に逆行しているとも考えられるのではないでしょうか。


 実は、この学習計画を少し調整するだけで、子どもたちの学習の理解度をぐっと上げることができるのです。今回はそれを紹介したいと思います。

算数科における「高速授業」の実践

 今回、紹介するのは算数科での実践です。もちろん、僕がしている実践通りにする必要はありません。僕の実践からヒントを得て、ご自身の実践へと昇華していってもらえると幸いです。

 まずは算数科からです。僕は算数の授業をするときは、単元全体の指導時間の3分の2の時間で、全体の指導を終わらせます。そのためには1時間あたりの指導内容は教科書通りでは間に合いません。1時間に指導書の計画でいうと2時間から3時間の内容を教えることになります。

 そんなの無理だとおっしゃる先生は多いのですが、思い切って削ってみてください。削って生まれた時間は後述するように有効活用できるはずです。

 僕が削った主な活動は「板書」と「練り上げ」です。

 板書については、「教科書に書いてあることをわざわざ書かない」を意識しました。例えば「めあて」や「問題文」や「学習のまとめ」はあまり書く必要性を感じません。ノートを単独で扱うことを考えるならば、これらを書く必要性もあるでしょうが、ノートは教科書と授業とで補完されるべきものです。学習内容を振り返るならば子どもの手書きノートよりも教科書のほうがわかりやすいはずです。

算数は「書く」ことで思考が活性化する人もいる

 では、ノートには何を書くのでしょうか。僕は、算数での思考活動は「書く」ことが基本だと思っています。僕自身が数字を脳内で操作して答えを出すことが極端な苦手なこともあるのですが、簡単な計算や、どのように解くのかを図などで考える際には、まさに、紙に「書き殴る」ように考えることが多いです。そんなときに、思考とは書くことだなと強く実感します。

 もちろん、人の思考法はさまざまですし、一つの方法を子どもたちに強要するつもりは毛頭ありませんが、子どもたちの中には「書く」ことに強いエネルギーを必要としている子どもも一定数存在しています。彼らにとっては、書くことが多すぎる授業は、「考えるエネルギー」を使い果たしてしまうような授業になってしまうこともよくあります。

「練り上げ」に違和感

 「練り上げ」についても考えものだなと感じます。40人の児童で一つの考えを練り上げていく授業を良しとする考え方は、まだまだ現場では根強いと感じますが、果たして40人で練り上げることなど可能なのでしょうか。数人の理解度の高い児童と先生で練り上げた考えを「クラス全体で練り上げた」とはしていないでしょうか。算数科ほど理解度に差が出やすい教科はありません。それを「みんなで考えたね」という綺麗事の演出のために時間を使うことはもったいないと感じてしまうのです。

生み出した時間を有効活用

 では、「板書」と「練り上げ」を削って生まれた時間をどのように有効活用していったらいいでしょうか。

 それはずばり「形成的評価」と「回復指導」と「個別支援」です。

形成的評価

 まずは「形成的評価」からです。これは単元の中盤でするテストのことを指しています。これは多くの人が誤解しているのですが、テストは単元の最後にする「総括的評価」だけではありません。単元の最初でする「診断的評価(レディネステスト)」と合わせて、アメリカの心理学者であるブルームによって提唱された「完全習得学習」を起源にする考え方です。

 しかし、なかなか授業時間には余裕がないこともあるので、僕は特に「形成的評価」に力をいれたいと考えています。これは、単元で教えた内容が子どもたちにどの程度身についているのかを測るためのテストです。そして、これは「総括的評価」で見られるような「子どもたちへの格付け」ではなく、「回復指導」とセットになるテストである点が重要です。つまり、子どもたちの理解度が低い内容は「もう一度」教えてあげることができるのです。

 単元の中には、「一回で理解できる内容」と「一回では理解が難しい内容」があります。しかし、これを指導前に把握することはなかなか難しいです。それならば一回指導をしてみて、そのあと「形成的評価」をして、理解度が低い内容を炙り出せばいい。「大事なだから一回しか言いません」よりも「大事なことだから何度でも教えてあげるね」ということです。

算数科こそ「個別支援」をしてあげたい

 算数科では、子どもたちの理解度に大きな差が出てきてしまいます。だから、大切なのは「一斉指導」ではなく「個別支援」なのです。「学級の中間層へ向けた指導」なる言葉がありますが、学級には「中間」なんて児童は存在しません。「一斉指導でわかる子」と「一斉指導ではわかりにくい子」だけなのです。結局、理解が苦手な子には「丁寧な一斉指導」よりも「個別支援」が必要なのです。

 「個別支援」には、時間がかかるものです。費用対効果でいうならば、一見、とても効率の悪い指導にも見えてしまいます。40人学級ならば、一斉指導の40倍かかると思っている先生もいるでしょう。だからこその先述した、内容を厳選した「高速一斉指導」なのです。それで30人が理解できる授業をすれば、個別支援は「10人」で済みます。さらに、指導者が足りなければ「子どもたち」も活用していきましょう。「ミニ先生」として教室をウロウロしてもらうのです。

「わかったレベル」には2段階ある

 子どもたちにはよく「わかったレベルには2つのレベルがあるよ」と話しています。「わかったレベル1」は「問題が解ける」状態です。そして「わかったレベル2」は「問題の解説ができる」状態です。わかったレベル1の子どもたちが教室をウロウロして、誰かに説明してみることで、逆に「自分の理解度の低い部分」に気がつけるという作用も生じます。

算数授業の「算歩(さんぽ)」

 僕の算数の授業では、子どもたちは「算歩(さんぽ)」と称して歩き回る時間をしょっちゅう作ります。座ってるだけよりも、歩いたほうが、脳の動きも活発になる気がしますよね。

 このように、学習計画という考え方から少し解き放たれることで授業の作り方を変えることもできるのです。おもしろい実践が生まれたTwitterにいるめがね旦那まで教

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