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第158話 鎖縁

(くさりえん)


 その日の明け方の、夢から醒めるその直前。
いつもの家の庭先で、いつものようにお洗濯を干す少女の姿がそこにあった。
 生成りに燕脂の縦縞模様のいつもの着物を着た彼女は、今日もよく洗濯物が乾きそうだと天を仰いで微笑んだ。山の緑が美しかった。

 少し場面が飛んで、今度は家の外からガタガタと扉が開く音がして、少女の父親と思しき男の人が畦道から帰ってくる気配がしていた。
 三つ指をついてから軽く目を閉じ板間に額づく。それから顔を上げると彼女がパッと破顔(はがん)して、「お父さん!」とパタパタと駆け寄った。父親からとても愛されて育っていたことが伝わった。
 昨日かなり浄化が進んだことにより、時空を超えてこの少女と父親に、何でもない平凡な、平和な時が戻りつつあった。

 彼女の時間が再び動き出したことを喜びながら、私自身もちゃんとクリアにしないとと、そんな願いを込めて起き上がる。ゆっくりとカーテンを開けると、澄んだ冬空の下の方に太陽が光っていた。それを見た瞬間に“鎖縁”という言葉が頭に響いた。

「あっ。」


 学生時代の終わりから社会人になる頃にかけて付き合っていた人がいた。それまでの中で一番好きになった人。シュウと呼んでいた。

「シュウ、私のお父さんだったんだ。」

 唐突な閃きにはいつだって根拠はなかったけど、それでも不思議と確信があった。

 シュウとはお互いに嫌いになって別れた訳ではなく、大きな喧嘩をしたこともない。実際関係が終わったあとから彼も私に向かって電話口で、「俺たち嫌いになって別れたわけじゃないしな。」と言うので、少しだけ困ってしまったりもした。

 そんな彼と別れて三か月後に旦那に出会い、それから三年後には結婚することになるのだが、私の中には新婚当時もこの元彼への未練が消えずに相当悩んだ。
 旦那と付き合う前に一度頼った占い師によると、「あなたとシュウさんとは腐れ縁なんてものじゃない。鎖が雁字搦めになった、鎖縁と呼んでいい。」と言われ自分でも納得し、それなのに別れが来たことが解せなかった。その占い師を前にして、旦那を思い浮かべた時とシュウを思い浮かべた時とでは、ハートチャクラに射した光量が圧倒的に違っていたのだ。

 私の元にあきらが産まれ、その数か月後にシュウもまた男の子の父親になったとの連絡を受けてようやく、私たちの今世の縁は切れることになった。だから今になってわかるのは、この元彼も、私を助けるために今世で出会ってくれたということ。


 面白い繋がりはもう一つある。
この、シュウとの付き合いの歯車が合わなくなってきた頃、その事をなんとかしたくて風水で割り出し地図を開いて初めて詣でたのが、茨城県の鹿島神宮その場所だった。
 彼となんとか別れたくないともがき、地元駅の最初の時刻表しかわからない状態で実家から電車を乗り継いで、当時の私はタケミカヅチに会っていたのだ。
 そしてその日は長距離移動でクタクタになって、帰宅するなり夕方から寝てしまった。夜中になって目を覚ますと、寝てしまった直後にシュウから約二か月振りの着信があったことに気がついた。
 この電話を逃してなければ、あるいは私の人生はまた違ったものになっていたのかもしれない。鹿島に行ったから着信が来たのか、鹿島に行ったから着信を取り逃がしたのか、それは今でもわからない。とにかくその日で恋人としての関係は終わり、私たちはその後の四年余りを友人として過ごした。

 あれから二十年もの時を経て、大好きだった元彼という存在が、過去世の私の父だったのだと判明した。

 だからなのだろうか。
時々スサナル先生の顔を思い浮かべると、全く違う筈の先生の顔が、シュウの笑顔に重なって視えることが幾度となくあったのだ。

 ありがとう、シュウ。
あなたに育ててもらった私は、これからちゃんと幸せになるから。スサナル先生に愛されるから。どうか、娘がお嫁に行くことを悲しまずに見守っていてね。

 燕脂の縦縞模様の着物と町人風の男の人の後ろ姿が視えていた。二人仲良く手を繋いで、田舎道を光のほうへと消えていった。




(参考)
第10話 『RPG』

written by ひみ

⭐︎⭐︎⭐︎

実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

⭐︎⭐︎⭐︎ 

この話を書いた日は、MISIAの♪つつみ込むようにを朝から無性に聴きたくなってました。
そしたら昼間、この話を書くことになって納得!
当時、シュウがこの曲が好きで、誕生日にアルバムあげたらこっちが思ってた以上にものすごく喜んでくれました。
なるほどね。
しかもミーシャっていう名前は、ミカエルという名前のちっちゃい子呼び。愛称なんですよね笑

先日、リトの話を書いた日は、私がリトに出会ってぴったり365日目。
今回この女の子の話を最初に書いた日もまた、彼女に出会って365日目。
丸一年経った今でも、現在進行形で彼らの浄化を続けています。いっそがしいねー。
そのくらいね、闇って深いんです。「これでもう終わり」ってエゴは判断したがるけど、思い込みは危険です。

でも勿論浄化できるって、いいこともあります。私の場合は四次元でのことが殆どですが、浄化のたび、その都度発見も出会いもあります。それに何より、自分も純化し、彼も純化します。
(リトにしてもこの子にしても、どんな発見や出会いがあったのかは今後へと続きます。ああー、闇って愛おしい!)


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←今までのお話はこちら

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