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第159話 アテンションプリーズ


 筋トレが功を奏すのはその継続性によるものであって、それと一緒でより多くの闇を“こなせる”ようになるのもまた、日々の内観の賜物である。

 私の闇感情を鏡として見せてくれるけーことの追いかけっこは、以前のように、年単位、月単位で離れなければならない状態から脱し、気がつけば数週間と掛からずに戻ってこられるほどに軽くなっていた。

「夢で、いつもの街並みの建物の一画が巨大水槽になっていて、その中にイルカやクジラが泳いでいた」とはけーこの話。彼ら哺乳類がシリウスの存在だということは、スピリチュアル界隈なら有名だろう。

 私もそこから思わずシリウスのことを連想すると、草原にひとり寝そべっている十七歳のリトの意識とリンクする。まだ若干幼さの残る航海士は、夏から秋によく見られる細長いタイプの雑草に潜り込むように寝っ転がり、両腕を枕に夜空を見上げている。それから迫り来る初陣(ういじん)を前にして、「必ず大切な故郷を守るんだ」とその志に静かな火を灯す。
 リトの愛したシリウスの故郷。近づき難く、人を寄せ付けないと思い込んでいた蒼く輝く一等星は今や、私にとっても大切なふるさとになっていた。


 そんな中おそよ九か月半振りに、街なかで彼の姿を見かけた。
 あきらを拾った学校帰り、いつものようにスサナル先生の職場である中学校近くの道を運転していると、生徒たちの下校指導を終えて他の先生方と歩いている彼の姿を一瞬だけ捉えた。

「……いたよね。」

「いた、ね。」

「見せられたよね。」

 あきら自身が「見せられた」と伝えてきたことで、今のが私だけの見間違いや思い込みなどではなく、スサナル先生本人なのだとの確認となった。
 あきらも私もその後は、お互いに無言でまっすぐ前だけを向いてしまい、親子共々運転席と後部座席とから何ともいえない気恥ずかしさが漏れていた。

 事は動き出したのか。再会の時は近いのだろうか。先生が姿を現したことで、いよいよサイレントも終わりが近いのかと思うと嬉しくなった。
 それと共に直近で次に何をやるべきか、それがぼんやりと輪郭を帯びてきていた。


 それから数日のうちに、タイミングよくけーこにランチに誘われた。

「たまにはひみとちょっといいもの食べたくてさ。前に、辛っらい、けど美味しいスープが付いてくる焼き肉屋さんに行ったから、それをひみにも味わってほしいんだよね。」

 駐車場に到着すると、ちょっとだけ逡巡して、コートは車に置いていくことにした。店までたった十数メートルの距離でもこの寒さは恨めしかったけど、コートと一緒に煙まで連れて帰りたくはなかった。

「うん、美味しい!
辛いけどこれは美味しいね。お肉もいいけどこのスープと白米の組み合わせだね。」

「でしょ。何入ってるか知りたいよね。何とか家で再現できないもんかね。」

 そんな話をしながら食事を堪能すると、喫煙スペースから戻ってきたけーこにこのあとの予定を聞かれた。人より食べるのが遅い私は、最後のお肉と格闘していた。

「ひみ、今日って夕方まで時間ある?
去年アンカリングした音楽ホールのアンカーさ、あれ、このあと外しに行かない?」

「あ、それね。一昨日くらいから私もちょうど同じこと考えてた。そろそろあいつ外しに行かなくちゃいけないなって。」

「おお、ひみもか。
……てことはいつ?今日?明日?」

「なんとなくだけど、今日で合ってる。」

「それじゃあ食べ終わったらこれから行きますか。よろしくお願いしまーす。」

「あいー、よろしく、行きましょう。」

 辛いスープで汗ばむほどに体がホカホカとあったまっていたのに、店を出た途端に一気に冷気に襲われて、コートがないことが悔やまれた。
 急ぎエンジンをかけると暖気しつつ、二人で音楽ホールを目指した。いよいよ停泊していた船が、出帆(しゅっぱん)の準備を始めた。




(参考)
第1話 『始まりの男神、終わりの女神』


written by ひみ

⭐︎⭐︎⭐︎

実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

⭐︎⭐︎⭐︎ 

やぁやぁ、あったよそんなこと笑
下校指導後、中学校に戻る途中のスサナルくんがいたんだけどですね(どんな日本語?)、私、この時運転中に『後悔』という感情のことを深く視ていたので、まさかそんな時に彼を見かけるとは思っていませんでした。

とはいえ、車を停めて会いに行くとか、Uターンして追いかけるとかをしてはいけないことは、感覚的にわかっていました。サイレントでは、基本、現実は追いません。動かなければならない時は動くようになっています。

私の場合特に、現実を力技でどうこうしようというのはアウト。浄化のプロセスも一緒なんですが、必ず内面が先です。現実っていうのは、内面が変化したからこそそれに伴って変化するんです。つまり現実とは、過去の内側世界の答え。見えているものとは自分の心に過去で起きた変化が事象化したものです。
浄化中はだから、一時的に現実に皺寄せがきて、物事がスタックすることもあります。それを段々繰り返して滑らかになっていきます。

でね、この時『後悔』をまっすぐ直視していた私は、実はスサナル先生を見ちゃったことに対する『動揺』まで、ものすごく心の配分を割けた訳じゃないんです。
そしたら前を走っている車がなぜか突然ハザードつけたのにそのまま走り続けて、そのことに気づいて慌てたのか、今度はハザード切った瞬間になんか右ウィンカー出してみたり左ウィンカー出してみたりと、私の代わりにわたわた動揺しまくってくれました笑
かわいらしい動揺の身代わりをありがとう笑

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←今までのお話はこちら

→第160話 隣り合わせのマトリックス

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