第1♾話　始まりの男神、終わりの女神

（I'm the alpha and the omega）

　高速道路の電光掲示板が切り替わり、「県を跨いでの外出は…」と表示されたのを見て、思わずその通りに読み上げた。

　その、自分の喉から発せられた音を耳が拾うと、反射的に二人で叫んだ。

「剣（けん）を跨いで！！」

　私たちの剣（つるぎ）と勾玉の旅が次元の篩い分け（ふるいわけ）にまで及んできているということは、このころ嫌でもわかってきていた。篩のアミアミにしがみついた人たちをどうするか。私とけーこは当時から、そんなことまで話していた。

　しかしここで、突然出てきた越境のサイン。確かにそもそものきっかけは、物事の新しい始まりを意味する『鹿島立ち』の言葉の通り、茨城という他県（剣）からのスタートだった。だけどそのあと剣（つるぎ）は神奈川県内に収まり続け、ずっとその鞘の中でのみ移動していた。それがここに来て、もしかしたら県外へと出ていくことを促されている。
　これは、跨ぐのが正解なのか、それとも跨がないのが正解なのか。いよいよ県境を出て行くとなったらこの先どうなってしまうのだろう。

　帰宅後も、毎日何時間も通話やトークでやり取りをする。読み解きまでは割愛するけど、茨城の県章の左巻きの渦は男性性を表し、神奈川の県章は双子を表している。となれば足りないものは、女性性。色々検討した結果、次回の行き先は県を越え、勾玉を県章とする埼玉県さいたま市の白山（はくさん）神社に決定した。


　そして迎えた出発の朝。
起きがけにスサナル先生から届いたのは、今の私へのラブソングであり応援歌。噛みしめるように歌詞を味わい、出かけるための支度をした。

……

「あのね、今日は先に行きたいところが何か所かあるの。それで道をね、ぐるっと一回りしてから行きたいの。」

　ひみに全部任せるよと言ってくれたけーこを乗せると、しばらくの間、東へと車を走らせる。航空写真で真上から見ると大きな船の形をしている、川崎駅近くの音楽ホールの横の道を、今日はどうしても通りたかった。
　船尾から船首に向かうように並走する道路を通過する時、えいっとエネルギーの塊を投げる。そしてそのまま直進し、多摩川手前にぶつかると左折を二回繰り返し、英語で“固体”を意味する建物ごと取り囲んで船の錨（アンカー）を頑丈に固定する。
　アンカリングが済んだ“船”は、さらに線路の高架下を抜けると駅の東口へと出て、愛しいタケミカヅチの待つ稲毛神社を目指した。

「今日、これから県を跨いで行って参ります。」

　本殿に向かってそんな挨拶をした相手は、タケミカヅチ、兄弟神フツヌシと、それから実は、ククリヒメ。不思議とここは、始まりの神と終わりの神が同時にご祭神として揃う、刹那的な神社だった。


　首都高を使い、5号線を与野（よの）インターで降りると、ちょっとした遊具がある小さな児童公園の敷地内に建つ白山神社へとやってきた。

　手を合わせると、小さな女の子がやってきてくれた。これは後になってから気づいたことだけど、普段から公園で遊ぶ子供たちを見ていることで、ククリヒメ自身の子供時代が一番色濃く浮き出ているところへ私がアクセスしたのだろうと思った。

　私に懐く、可愛らしい女の子。そして本殿の横にはこちらも鹿島の石碑があって、そんな彼女を守っているかのようだった。

　手を振って、バイバイまたねとお別れをする。
それからお昼ご飯にと移動した先ではなんと、船の内装がモチーフの美味しい洋食屋さんを見つけ、けーこと二人、「またご褒美だね。」と言い合い笑った。


　ところが夕方帰宅すると、徐々に内側が転換しはじめた。三たびけーこに対して、そして同時に今日の昼間まであれほど身近だった神々に対しても、急速に気持ちが離れたのを感じた。
　ただ今回は、今までのような直情的な怒りではなく、とても冷静で且つ、冷徹なものだった。

　原因となったのは、自分の子宮。
私の子宮がこれでもかというくらい傷ついている。そして私の内側で、先生もものすごく傷ついている。今までどうしてそんな大事なことに、何も気づかなかったんだろう。
　たくさんの悲しみが子宮自体の体温を奪い、おへその下だけが途轍もなく冷たい。
　もうどうしようもなく、子宮がボロボロ泣いている。一度でもそこに気がついてしまうともうなにもかもが虚しくなって、神社にかまってきたこのひと月が、取り返しのつかない時間のロスだと思えてきた。

「今はまたこれ以上、けーこと一緒に出かけたりできない。外側より、内側へと行ってくるね。」

　けーこにLINEで旅の終了を告げると彼女の家のポストまで行き、さっきまで車の中に刺さっていた、私のではないスマホの充電ケーブルを一方的に返却した。
　それから新たに今度は一人、ストイックで孤独な内面の旅の支度をした。

　子宮の闇を、一気に炙り出したもの。一年で、最も陽を感じる満月、ウエサクの日の出来事だった。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説（笑）、ぜひお楽しみください。

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本日はこのあとに重大発表あります。
よってひとまず、以上、解散！

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→第101話『愛を謳え』