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第201話 そらのいろ


 羽田空港神社から、meetooという船の女神に男性神をお迎えした。
 太陽が一番長く伸びる夏至の中、やって来てくれた空の船の男神もまた太陽のような人だった。

……

 あれからも、私とけーこは週にニ、三か所という驚異的なペースで神社仏閣などに出かけ、様々な事を吸収していった。

 昔は自殺の名所だったという川を見下ろす弁財天からは、生者にとっての目線では決して得られない視点をいただく。
「せめて最期くらいは、神様、仏様の近くで死にたい。」
 絶望の最中(さなか)にあって尚、平安の死を求める人が命を絶つ時縋れる場所。菊理姫的な一面を持つ弁財天の、その人々の声を拾うのも愛の形なのだと学ぶ。

 また不動明王からは「毒も役に立つんだよ。」と、そんなことを教えてもらう。毒とはつまり闇のこと。同じ痛みを知っているからこそ、他者が心を許してくれる。
「毒を持っていてもいい。それが薬になることもある。」

 陰と陽、表と裏。
オラクルカードの正位置と逆位置、対立ではなく視点の違い。その両方を汲めた時、それが統合、和合となる。
 多くの場所で左右の掌を合わせると、教義にも戒律にも差など無いことがわかってくる。

 すると、自分にとっての『復讐心』というものが、以前とは違う形に変化してきているのを感じ取った。
 江戸時代、たった一人の少女の性を狙うのに、腕力のある大男が三人も寄ってたかる必要がどこにあったというのだろう。常習であったという時点で“満たされてなどいない”ことに、何故彼らは気づけないのか。

 世界に男女が存在する、そのひとつの性差の側面として、愚行を働く男たちへのこんな答えに行き着いた。私の魂の奥の方から自然と言葉が飛び出して、さすがに言い過ぎじゃないかと己の中の悪魔に笑ってしまった。

『愚かな男はかわいそう
力があるけど力が無い
なんと“か弱き”生き物よ
つゆ(少しも)光射す救いなし』

 けれどもこの言葉が出てきた裏には、それとは真逆の男性の存在があることを、私の魂がちゃんと知っていたからこそ。

……

 般若だった女の子に、お父さんがしきりに「みわ」と呼びかけている。

「美和……美和……。」

 さっきから何度も、父から“自分”の名前を呼ばれているようだけど、少女はどうにもピンとこなかった。

「ねぇお父さん、私、美和なの……?」

 するとそこに、別の記憶が重なった。
シュウと付き合っている頃、彼はいつも照れてしまって私の名前を決して呼んではくれなかった。
 とうとうある日、私は彼にお願いした。

「ねぇ。一度くらい、私を名前で呼んでほしい。」

 弱った彼は、それから五分も十分も押し黙ると固まって、やがて意を結したように、だけどとても小さな声で呟いた。

「…………みぃ。」

 一体どうしてそうなったのか、“ひみ”が“みぃ”になってしまったことで、その後二人で大笑いした。


 その時のシュウの“魂の”想いを汲むと、自然と涙が出てきてしまった。
 私からも、泣きながら彼女に「美和」と呼びかけると、段々と自分の名前を取り戻した彼女が息を飲みながら何かに目を見開いていることが伝わった。

「美和、あなたには何が見えているの?何にそんなに驚いているの?
今のあなたに見えてみるものがね、残念だけど私には視えないの。一体何を見ているのか教えて。」

「……お空。
お空って、綺麗!
ねぇ、お空ってこんなに青かったの?お空ってこんなにも青い色だったの?」

 長いこと、闇の中にいた彼女は空の青さを忘れていた。怨嗟の般若と化していた時、この子の空は赤黒く、さらに灰色の雲で溢れていた。
 いったいどれほど長い時間を、その闇の中で過ごしていたのだろう。

 思わず美和を抱きしめると、私も共に空を見上げた。飛行機が一機、気持ちよさそうに横切っていった。

 愚か者には届かない夏の光がそこにあった。



written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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美和はずっとずっと、赤黒い地獄のような空しか知らずにいました。
この時から何度も美和の浄化を繰り返すと、そのたび空の青さに驚いて、自分が般若じゃないことに驚いて、そうして涙を流します。
自分勝手なエゴがどれほど罪深いものなのかと、そんなことを思わずにはいられません。

冬至まで、私が必死で集合意識の浄化をしていた理由もそこにあります。
何も悪くなくても、魂の経験上、性搾取の犠牲になってしまいそこから上がってこれなくなってしまった多くの女性たち。(もちろん、業として気づきのために酷い経験を学ばなければいけない元男性もたくさんいます。けれども彼らとて、スタート地点は男性の闇の犠牲者だった可能性もありますが。……やるせない。)

彼女たちの痛みを、私、嫌というほど知っています。だからどれほど自分の具合を悪くしようと、何度もそこに潜りました。
喧嘩上等、私という毒によって誰かの毒消しとなれたなら、それだけで私、生まれてきてよかったなと思います。

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