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”私たちに必要なのは、真実じゃなくて矛先”だったんだ。

架空OL日記を見てきた。

架空OL日記は2017年に地上波でやっていたテレビドラマだ。元々はバカリズムが2006年から3年間、OLのフリをして書いていたブログだったのだが、まさかの本人出演(しかも女性役)で映像化になった怪作である。笑

<キャスト>
・私/入行6年目。みさと銀行一般職OL.実家暮らしでインドア派。何かとややズボラなところあり。
・マキちゃん/「私」と同期の6年目。「私」とは気が合い、毎朝駅から会社まで一緒に通勤している。ストイックな性格で皆でジムに行ってもひたすら筋トレしている。
・小峰様/入行8年目の「私」の頼れる先輩。上司でも臆さずにハッキリ意見を言う。以前女子更衣室のハロゲンヒーターが壊れた際、自分の貯めていたポイントで代わりのヒーターを買ってきたことから後輩から「小峰様」と呼ばれるようになった。
・さえちゃん/入行4年目。ややおっとり天然系。漫画好きで重さや満員電車に関係なく漫画一気貸しが得意。
・酒木さん/入行10年目。しっかりものの先輩。給湯室の注意書きはほぼ酒木さん。趣味は太極拳とカラオケ。

私はリアルタイムでこのドラマを見ていて、めちゃくちゃ面白くてこれを1週間の楽しみにしていたくらいだったので、映画化の話を見たときは嬉しくて飛び上がった。笑

さて、今回はこのじわじわくる面白さの謎を考えようと思う。(一部ネタバレ含みます)

普通の日常に見え隠れする面白さ 

バカリズム演じる「私」は毎朝、スヌーズの携帯アラームと闘いながらやっと起きて、なるべくサクッと化粧を済ませ、イヤホンをしながら満員電車に揺られ、会社では更衣室、女子トイレ、食堂などで同僚や先輩たちと主に支店長や副支店長の愚痴を言いあう。

ほんとにごく普通のOLだ。

しかし、バカリズムはこの普通の中でふと見逃してしまうような思考を切り取るのが物凄く上手い。

例えば朝のシーン。

「私」の朝の必需品はイヤホン。

「通勤時間1時間を乗り切るための…プレイリストを…作成してるから…それで乗り切って………イヤホンがない。……昨日着たコートに入れっぱなしだった……はあ……」

と言って家へと引き返す。

思わずあるある!と言ってしまいそうになるし、実際このシーンに自分がハマったら多分自分に少しだけイラッとしてしまう。笑
でもここは、あーみんなそうだよねーという視点で見れて、そんな、少しマヌケな自分ごと引っくるめてくすっと笑える。

また「私」の休日シーンもドラマ版とは大きく変わらず、"あれもこれもやりたいと思っていたのに、結局特に何もやらずに終わってしまった。ちなみに明日も同じ予定。"と特に何の事件も起きずに終わる。笑

これも思わず、「わかる〜」と呟いてしまいたくなる内容だが、これを見ることで、あ、そういう感じなのは自分だけじゃないんだと気づけて罪悪感が少しだけ薄まる。笑

こういう、一見すると素通りしがちな微妙な心の機微に気づいてそれを描写するのはさすがの洞察力である。

”私たちには、真実じゃなくて矛先が必要なの”

このストーリーの8割は上司の愚痴だ(笑)

上司にバレないように女子行員はこっそり面白いあだ名をつけて更衣室でネタにしている。

そして、それはたまに"なんだかモヤモヤしている感情の捌け口"にも使われたりする。

いつもの朝礼。別に定位置が決まってるわけではないけど、みんななんとなく同じ位置で始まる、朝礼。

しかし、この日は「私」の隣にいつもはいないはずの男性社員が。

別に定位置が決まってるわけではないから、いいのだ。いいのだけど、彼が移動したことによって他の女子行員の位置も微妙にズレる。

その日のお昼休みの話題はこれについてだった。

「いや、別に全然いいんだけどね?でもさぁ、なんかさぁ、」

「わかる!なんでわざわざ違うところに立つのかなあ」

そんな盛り上がっているところに後輩のさえちゃんが一言。

「あ、あの人のいつもの場所に立ったの私です。だから多分移動したんですよ」

「……」 「……」

「どうしたんですか?」

「いや、さえちゃんごめん、それ向こうが先に移動してたことにしてもらっていいかな」

「なんでですか?」

「いや、もう私たち走り出しちゃってるから、気持ち的に。私たちにはね、真実じゃなくて矛先が必要なのよ

「……わかりました…(?)」

そう。私たちには真実じゃなくて矛先が欲しいときもある。

言うならその矛先があることで女子の結束が固まることも、よく、ある。

ただそれは、身近で一緒に働いている同性社員を矛先にしてはいけない。しかし”このなんかモヤモヤしたやつ”を定期的に吐き出さないで仕事できるほど、私たちは人間できていない。

この映画はそんな私たちでもいいんだよ、と言ってくれるような優しいストーリーだった。

悪口を言っちゃうのは私だけじゃないんだ、という安心感

私がこのドラマにハマったそもそもはここにあると思う。

なんとなく、仕事をしてたら「愚痴を言っちゃいけない」「弱音吐いちゃいけない」「頑張らないといけない」と思ってしまいがちだけど、この映画を見たら肩の力がストンと抜けた。

たぶん、みんな同じような気持ちなんじゃないかなと思う。

毎日頑張って頑張って、ちょっと”黒い自分”が出てきたら”そんなこと思っちゃダメ”と蓋をして。”そんなこと思う私はなんて嫌なヤツなのか”って自己嫌悪して。

でもここではそんな「私」でも良いんだよ、とふわっと包み込むような優しさに触れることができて、なんなら「私」やマキちゃんたちと一緒に矛先を一点にして愚痴ったり、共感したりする。

日々、いろんなものと戦いながら仕事していて、1つくらいそんな場所があっても良いと思う。

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