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医工産学連携の基礎:(5)「学」とは何か 〜大学教員のお仕事④ 大学教員との協働で考慮すべきことは「プロセス・成果の公表戦略」

前回の続きです。ここまでの3記事で、大学教員は

  1. 本務は研究。資金繰り→研究→論文発表の無限ループ。

  2. 次いで欠かさざる本務が教育。そして学内外連携の研究教育による社会貢献も。

  3. さらに学務・校務。学生と資金を集める広報も大事。

という職業であると解説してきました。


このような職業である大学教員と医工産学連携での技術・製品開発を行う際、大学教員の生態・生存活動を踏まえて考えていただきたい事業戦略についてこの記事で述べます。




研究成果の公表


研究者は研究第一ですが、研究は論文等での成果の公表まで至ってようやくその一歩が記録されます。公表しなければ研究をしていないのも同然の扱いとなります。

さらに、発表には速報性も重要です。研究は新規性・独創性が重要視され、同じ研究を他の研究者が取り組んでいて同じ学識・学説で先に報告が出た場合、すべてが無駄になります。

また学会等で議論することも重要です。これは一つの研究の結果・成果は必ずしも真理・正解・終着駅ではなく一説であり、他者との議論を経て更に学識や学説を深め、研ぎ澄まし、次に繋ぎ、また時には捨てることが必要です。

ですので研究者は成果が出ればすぐに公表したがり、すぐに他人に喋りたがる、そういう生き物です。

この生態は共同研究で新製品開発をする場合にとても厄介になる可能性があります。すぐに手の内を外にさらしてしまう。時には特許を出す前に外部発表してしまい、公知の技術となって特許性が失われてしまう、そんなことも起こりかねません。研究者の口を塞いでおく必要があります

とはいえ研究が第一の研究者は、研究成果(発表)が出ないと業務上の業績カウントが増えません。最近の研究者は一般の企業人(正社員)と異なり、3〜5年の任期で雇用される任期制の契約社員のような雇用が多いため、短期での論文等研究成果が求められます。長丁場の研究開発事業において、その中途過程では一切外部成果発表が出来ないとなると、最悪の場合職を失います

つまり、

研究者は研究成果をすぐ外に喋る生き物で、その口を塞ぎすぎると死んでしまう生き物

なのです。


学生教育と共同研究


もうひとつ、研究者の大事な本務である教育に関連しての注意点です。

共同研究において、大学教員の研究室に所属する優秀な学生さんが参加してアイデアをインプットし手を動かしてくれることは、研究推進において強力な推進力となる可能性があります。私もほとんどの研究において学生さんの研究推進力・開発力に支えられて成果を出してきました。

学生さんに研究に参加して貰う場合、学生さんにもメリットがなければなりません。無償の労働力とするのは論外です。業務に応じた報酬を支払うのも一つですが、まずは研究成果を利用して卒業要件を満たすことを可能にするのが第一です。つまり、卒論・修論・博士論文の一部としてまとめることです。

この場合も注意すべきは、こういった学位論文は外部への公表の扱いとなることです。博士論文の場合は国会図書館に収蔵され、多くの場合学位取得条件に学術論文雑誌での論文発表(orアクセプト)が入っているので明らかに公表となりますが、修士論文、学士卒業論文も公知の扱いとなることがあります。
※ これは意外に気が付かないことがありますが、医工連携以外の共同研究でも特許性のある技術について学位論文にする際は必ず特許戦略上問題ないことを確認することが必要です。卒論は学内だから大丈夫だろう、が通用しない可能性があります。

学生さんは卒業・修了までの年限が決まっています。しかも研究開始から卒業修了までの期間が1〜3年程度と短いです。就職を含め学生さんの生活・人生に非常に大きく影響しますので簡単に卒業を伸ばすわけにはいきません。すなわち、ここでも早期の研究成果公表が求められます


大学教員との医工産学連携:研究成果・開発過程の早期公開の必要性をどう考えるか


このように、研究・教育には成果の外部公開が必須であることを踏まえた協働戦略が、医工産学連携では必須となります。

第一の戦略は、事業に必須の知財関連(特許、実用新案等)と医学的なエビデンス証明のための論文化を除き、開発が進み製品の形がおおよそ見えてくるまで外部公開は控える様に取り決めておくことです。

しかしこの戦略は、上で述べたような研究者の生態から考えると、小規模・短期のテーマでの産学連携では大きな問題とならないものの開発〜実装が長期間になりがちな医療機器分野では、時に研究者にとっては苦しい足かせとなりかねません。もちろん産学連携実績は業績の一つにはなります。しかし論文に比べれば遥かに弱い。また学位論文に出来ないテーマでは学生さんの協力を得ることも困難です。

共同研究費を頂いているとしても、その経費はほぼすべて直接研究に費やされ、一般管理費(間接経費)もそのまま一般管理で消費され、生じる営業上の利益は微々たるもの〜0です。純粋な社会的な貢献としてだけでなく、医工産学連携に関わる大学・研究者側のメリットが少しでも多く生じることが望ましく、協働の中で適切に成果も順次公開出来ることが厳しく激しい生存競争が求められる現在の研究業界に生きるものとして望ましい形と考えます。


そこで考えるべきは、

連携過程・成果の早期公開はビジネス上マイナスしかないのか?

協業プロセス公開の事業リスクとベネフィットは?

という点です。

公開することが本当にリスクとなるか。逆にそこにベネフィットはないか。

もちろんすべての事例で通じる話ではありませんが、研究開発プロセス・成果を公開しながら行う事業開発について、このシリーズで実例を交えて私見をまとめたいと思います。

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