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医工産学連携の基礎:(4)「学」とは何か 〜大学教員のお仕事③ 校務と広報活動

前回の記事の続きです。
前回までで研究者・学者・教員としての大学教員の本務たる研究と教育、社会貢献としての産学連携と科学/教養教育活動の説明をしてきました。

まだまだありますが中心的な部分は校務と広報活動です。この記事ではそれらについて紹介します。

大学運営:校務、学務他

大学は「学問の自由」を謳う組織でありそのために高度な自治を維持してきた歴史を持つ組織なので、今でもかなり多くの部分で教員が自分のことは自分でやります

大学の運営も教員が担うので、教授会・学科会議・各種委員会など運営に関わる業務とそれに付随する会議がかなり多い印象です。
委員会も教務に関わるもの以外にも倫理委員会とか動物実験委員会とか、大学を運営するうえで不可欠なものがたくさんあります。

私が経験した中で大変だったのは改組。大学在任中に大学院学部の両方で改組を経験し大学院の方の業務を担当しました。大学での学部・研究科等の組織変更や新設・廃止は文科省にお伺いを立てて認められないと行えないので、重厚な書類業務が発生します。


大学運営:入試関連

大学にとって極めて重要ですが最も荷が重く皆に好かれない業務が入試関連業務です。一般的な仕事で「軽微な過失でも新聞に載る」のは入試ぐらいではないでしょうか。

一般の印象では、大学入試は秋の推薦入試と総合型選抜入試(AO)、冬の一般入試くらいの秋冬の単発のイベントで大変なのは一般入試だけ、と思われているかもしれません。しかし実際にはそれ以外にも私が思いつくだけでも

  • 共通テスト (会場提供、試験運営)

  • 大学院入試 (修士、博士、社会人大学院生)

  • 私費外国人留学生入試

  • 3年次編入試験

  • 飛び入学等の特別入試、etc

など多くの種類があり、問題作成、採点、試験官、運営など、一年中誰かしら何かしら負担を負います

私もほぼ全ての入試の試験監督・採点、そして学部一般入試と大学院入試では作題も何度か担当しています。質の担保、情報の秘匿、当日の円滑な運営、全てにミスが許されないかなり負担の高い業務です。
出題ミスや採点ミスなどの大きなもの以外でも、居眠りや靴音を立てただけでも最悪新聞に載るほど世間から怒られる、そんな仕事です。

※ もう随分前のことなので言ってもいいと思うのですが、大昔に大手新聞でのこの広告↓に使用された千葉大の過去問、僕の作題です。良問だった?

「物理現象をイメージする力と論理的思考力を問う」問題だったようです
出題ミスでなく平和に新聞に載りました


広報・営業活動

学生もお金もただ座していただけでは大学に入ってきません。企業と同じく、良いプロダクトを作れば何もしなくても自然とお客が買う = 良い研究教育をしていれば自然と受験生も共同研究も寄付も増える、なんてお武家の商法はありえません。広報・マーケティングはとても重要です。

先の社会貢献活動は大学の広報活動でもあり、中高生を中心とした科学啓蒙活動・出張講義等は、同時に入学者募集の広報・営業活動でもあります。上の新聞広告も学生募集広告ですね。

「企業からの依頼で」の共同研究・受託研究も、大学がどの様な魅力的な研究力・知見を持っているかを企業側が知らなければ産まれません。企業側が自発的・積極的に広く論文や大学保有特許をサーベイしているとは限らず、大学からプッシュ型の情報発信をして積極的に協働を促す活動が必要です。

大学のシーズを公開するイベントとしては、JSTによる説明会・展示会、一般の展示会などが規模の大きいものとして開催されています。例えば、

新技術説明会

大学見本市~イノベーション・ジャパン

イノベーション・ジャパン2014開幕です。今回は2台の実機を持ち込みました!

Posted by Medielite LLC メディエライト合同会社 on Wednesday, September 10, 2014

などや、私の分野ですと製造業・IT産業・医療産業系の展示会などにも必ずといっていいほど大学のブースが出ています。私が見に行く展示会にも必ず大学のコーナーが。

その他、自治体や地域の産業振興組織(商工会議所やコンソーシアムなど)での講演会、技術展示会、マッチングイベントなども研究広報の場として活用できる場です。私は千葉県・千葉県産業振興センター・千葉大学・国立がんセンター東病院の連携による医工産学官連携組織C-Square、川崎市産業振興財団、東京都医工連携HUB機構大阪商工会議所、日本画像医療システム工業会(JIRA)や経営支援NPOクラブなど様々な場所で講演や出展の機会をいただき広報活動をしていました。


またこういった現地イベントの他、メディアやWebでの広報も重要です。

大学の学科・研究室のWebって今でもあまり手を入れていない先生方も多いですが、学生さんの広報媒体としてこれらを整備することは意外と重要です。学科・研究室の人気を高めることは志望者の量を高める活動ですが、量を高めれば必ず質もついてきます。人気の高い組織には優秀な人材が集まります

またSNS関連でいうと、ある一分野に特化した研究・教育の話題というかなりニッチなネタなので絶対的なインプレッション数はあまり伸びません。しかしそもそも獲得目標が数人〜数十人規模ですので意外と効果あります。競合でやっているところが少ないだけに、僅かなインプレッションを獲得するだけでも十分効果的です。

そしてマスコミ報道・Webメディア等のインパクトはかなり大きなものがあります。最近は新聞・テレビ報道も一過性でなくWebでずっと残りますのでかなり効果的です。

広報活動としてこれらを適切かつ積極的に活用することは、大学での研究教育活動の質と活性度を高めるうえでも重要な事と私は捉えています。


まだまだあるかもしれないけどだいたいこんな感じ。 研究・教育に社会活動+校務+広報。

ざっくり説明するはずが、3記事にわたる長い記事になってしまいました。
要は大学教員は

  • 本務は研究。そして教育。

  • 研究・教育を軸とした学外での社会貢献も必須の活動。

  • 付随する校務・広報・営業も全て担当。学問の自由と自治のため。

という意外と研究教育以外もかなり忙しい職務ということです。

あ、あと学会活動もありました。それから行政関連の委員会なども。

大学教員は自分の大好きな研究と教育をやっている自遊人、ではなく、そのために必要なカネとヒトを必死で集めなければならない、小規模事業者と同じ様な活動をしています。大企業でしたら研究開発、人事、総務、経理、営業etcは分担していると思いますが、大学では割と一人で全般を担当します。個人事業主の集まりみたいな感じかもしれません。

…という大学教員の生態を説明がようやく終わりました。

次の記事からは、医工産学連携でこの人種と協働する際に彼らが何を一番必要としているか、という点に総括し、続いて本題である医工産学連携の進め方のお話に入っていきたいと思います。

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