テキストコンテンツが読まれない時代に、提供できる価値とは
能動的なテキストコンテンツから、提案型の動画コンテンツへ主軸が移る
2010年代前半まで、テキストコンテンツは非常に人気がありました。「ブログ飯」という言葉が生まれるほど、ブログを通じて生計を立てる人も多かったのですよね。また、言論系のテキストメディアがバズることも頻繁にありました。
しかし、2010年代半ば以降、テキストコンテンツが徐々に読まれなくなったように思います。その理由は、人々が能動的にコンテンツを観なくなったからなのです。
もともとコンテンツには、提案型と能動型の2種類があります。
提案型は、提供者が届けるコンテンツをユーザーが受け取るタイプ。一方、能動型は、ユーザー自らがコンテンツを閲覧しにいくタイプです。
昔からある提案型コンテンツといえば、テレビが代表例です。でも、ネット回線の高速化とスマートフォンの普及によって、YouTubeや動画のストリーミングサービスなども人気を集めるようになりました。
これらのサービスは、無限スクロールやレコメンド機能との相性が抜群です。スワイプすれば次々と新しいコンテンツが表示されたり、一つの動画を観終わっても次のおすすめ動画が自動再生されたりします。結果として、人々はスマートフォンで延々と提案される提案型のコンテンツを楽しむようになったのです。
さらに最近のトレンドとして、提案型のコンテンツが短尺化していることが挙げられます。TikTokやYouTubeショートなどの短い動画は、通常の長さの動画の何倍もの再生数を稼ぐことがあります。X(旧Twitter)の投稿が1万リツイートされて、億を超える表示回数に達することもあります。
つまり、観られるコンテンツの主流は、能動型から提案型に移ってきています。そして、長尺よりも短尺のコンテンツの方が、より多く観られる傾向にあるということなんですよね。
テキストコンテンツが読まれなくなった時代における、テキストコンテンツの価値とは
能動型のコンテンツであるテキストコンテンツは、動画などの提案型コンテンツに比べると、確かに見る人の数は減っています。では、このような時代において、テキストコンテンツが提供できる価値とは何でしょうか。
テキストコンテンツのユーザーは熱量が高い
受動型のコンテンツのユーザーと比較すると、能動型のコンテンツのユーザーは熱量が高いと言えます。ただ流れてくるコンテンツを見るよりも、自らコンテンツを探しに行っているので、当然と言えば当然ですね。
広告配信の経験がある人なら分かると思いますが、ただ単に冷蔵庫の写真が掲載されたバナーを表示する広告よりも、Googleなどで「冷蔵庫 4人家族」などと検索するユーザーの方が、何倍も冷蔵庫を購入してくれるのです。
つまり、能動型のコンテンツを観るユーザーの数は少ないものの、熱量は高いということです。
実際、後藤達也さんの提供する月額500円の有料noteは3万人もの会員数を誇っているそうです。テキストコンテンツを観るユーザーは熱量が高いので、コンテンツそのものでマネタイズがしやすいのです。
また、コンテンツマーケティングにおいても、テキストコンテンツは重要な役割を果たします。認知は受動型のコンテンツサービスで取りつつ、成約させたり既存顧客とのCRMを行うという観点では、テキストコンテンツの方が有利になります。
確かに、受動型のコンテンツにユーザー数では負けてしまいます。しかし、ユーザーの熱量が高いため、コンテンツそのもののマネタイズや、成約させる最終コンバージョン地点のコンテンツとして、テキストコンテンツは有効なのです。
現状のテキストコンテンツは実用的である必要がある
では、コンテンツそのもののマネタイズやSNSマーケティングに活用できるテキストコンテンツの条件とは何でしょうか。それは、テキストコンテンツが「実用的である」という条件なのです。
先ほど例に挙げた後藤達也さんのnoteには、次のような説明があります。
このコンセプトは、ビジネスパーソンや投資初心者に向けて分かりやすく経済ニュースを配信するというものです。ユーザーは「ここで経済や投資の学びを得る」という実用性を評価しているのです。
売れている有料noteを見ると、こういったビジネスパーソン向けのコンテンツが多いです。
他にも、恋愛系の情報商材であったり、クリエイターが自身の知見を披露するスキルアップ系のコンテンツなどが並びます。これらには全て、情報が実用的であるという共通点があります。
例えば、「20代で海外留学に挑戦したnote」というような、体験談系の有料noteも人気があります。これは、同じ立場の人たちが実際に遭遇する問題や解決方法を知りたいという欲求があるからで、やはり実用的だからなのです。
つまり、人気の有料noteのほとんどは実用的なものに集約されるんです。実は、ビジネス書の売れ行きの傾向にも同じような現象が見られます。
なぜこのような傾向になったのかといえば、提案型のコンテンツの主戦場がYouTubeやX(旧Twitter)に移っているため、なんとなく長文のテキストコンテンツを暇つぶしで見る、という習慣が急速に失われているからなのです。
提案型のテキストコンテンツの価値とは
2010年代前半まで、ブログには提案型のテキストコンテンツが溢れていて「オモコロ」や「デイリーポータルZ」などのネタ系テキストコンテンツも人気を博していました。
しかし、現在では状況が変わってきています。提案型テキストコンテンツの記事あたりの閲覧数は、1万PVもいけば大ヒットと呼ばれる一方で、YouTubeでは数十万再生されることも珍しくありません。人々が課金をするテキストコンテンツは、有料noteなどの実用的な情報に限られる傾向にあります。
そのような中において、提案型のテキストコンテンツの価値とは何でしょうか。
正直なところ、商業的な価値は相対的に低くなっているものの、ひとつのカルチャーとしては残る気がしています。テキストコンテンツを観る人たちは熱量が高いですし、テキストは何回でも見返すことができ、気になるところだけを拾い読みすることも可能です。
例えば、ある監督のインタビューというコンテンツがあったとしましょう。YouTubeに動画として掲載すれば数十万再生に達するかもしれませんが、テキストコンテンツであればせいぜい数万PVでしょう。しかし、YouTubeで接触したユーザーはレコメンドされてなんとなく観ているだけかもしれません。一方、テキストコンテンツを見返すのは極めて熱量の高いユーザーなのです。
2000年代に存在したサブカル雑誌は、見ている母数は少なかったものの、その分熱量が高く、ある種のカルチャーを形成していました。ひとつの雑誌を主軸としたゆるいコミュニティがあったんです。
提案型のテキストコンテンツも同じように、一つのカルチャーとして存在し、ゆるいコミュニティを形成していく方向性なのではないでしょうか。確かに、商業的には難しい状況になるでしょう。
しかし、熱量の高いユーザーを中心とした独自のカルチャーやコミュニティを作り出す力は、テキストコンテンツならではの価値と言えるかもしれません。