見出し画像

【気まぐれ読書日記】「河合隼雄は生きている」


最相葉月著「セラピスト」読了。最相葉月といえば、「星新一」、「絶対音感」などの著書で知られるドキュメンタリーの名手である。

本作の題材は、心理カウンセラー・精神分析医。最相葉月自身がクライエントとなり実際の心理療法を受け、その過程や紹介される事例を克明に記録していく。

本書では箱庭療法を軸に、絵画療法など、代表的な心理療法の手法が詳しく説明されている。中盤あたりではカウンセリングや心理療法の歴史が概観的に説明され、特に、クライエント中心主義の元祖として知られるカール・ロジャースについては具体的な解説がつけられている。

私自身、高校時代にはスクールカウンセラーによるカウンセリングをある程度定期的に受けていたから、心理療法やカウンセリングについてはそれなりに近い位置にあると思っている。ほんの一時期ではあるがカウンセラーを志した時期もあり、河合隼雄やフロイト、ユングといった精神医学の基礎となる書籍については片っ端から読み漁った。

そんなちっぽけな目標も、大学進学を諦めたのと同時にあっけなく消え去り、いつの間にか忘れ去ってしまったのだが……。

この本では精神医学および心理療法の基本理論だけでなく具体的な症例についてもいくつか紹介されており、実践的な知識としてより役に立つ。

中盤から後半にかけては説明がやや専門的になり、素人の私にとっては退屈になってしまった印象があるが、実際のクライアントが心理療法を通して少しずつ快復に向かっていくプロセスは示唆的で、読み物としても面白い。

2007年に惜しまれつつ逝去した河合隼雄の在りし日の姿もユーモラスに描かれており、心理療法の開拓者としての影響力にあらためて脱帽させられた。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?