見出し画像

single ep. 03 -央(TERU)

世界の中心とはなんだろう。

さっき見た水溜まりに、
足元のヒールが映って
雨の粒でポワーンと大きな波紋が出来た。
そのうち大雨になるだろうとその場を離れ、
これからくる嵐を逃れるために
駅に足早に向かった。

案の定雨は次第に激しくなり、
風の音が低く鳴り響いている。
私は電車が来るまでの間、待合室に入ることにした。
部屋の端っこには、
女の子と男の子が隣り合わせに座っている。
姉弟のようだ。
小さな手を握り合っては、
視線をちらつかせてソワソワしている。

女の子はなんて書いたか当ててみ、と
男の子の手のひらの雫を丁寧に拭き取って、
何かを書き始めた。
よくやってたなあ、と
私は自分の手のひらをジッと見つめる。
この大きくなった手で少しは
誰かを救ってあげられるだろうか。

この年になって、
人と比べて大したことが言えなかった自分に
失望することが多くなった。
努力ばかりが身を削っていく毎日。
将来をきかれても、
まずは今を何とかしないとと
一杯いっぱいのことしか言えないことが、
少々切なくなる。

しかし、本当の美しさとは、
自分自身を理解しようとする姿を魅せることだ。
今はボロボロかもしれない。
けれど、ほとんどそういう環境だと思う。
コンプレックスと思わなければ
努力をしたいとも思わないだろう。
磨き続けることでいつか
誰かのためになるのであれば、
毎日つらいことも諦めないで続けよう。
そうした中に幸せがあるんだと、
教えてくれる人ばかりであることに感謝する。

雨の音がどんどん大きくなって、
両方の耳に蓋をする。
電車が到着して、私は待合室から出る。
男の子は眠そうな顔をしながら、
女の子の手をぎゅっと握っている。
彼女は仕方ないなあという顔をしながらも
ほんのりと笑顔を浮かべている。
幸せとは、雨の日こそ色褪せることがない。
この景色が世界中でみられるように。
そう願っている。

電車から降りて改札を出た。
雲が水溜りに映し出される。
ヒールの淡い色味もはっきりとしている。
今日は少し重たかった気持ちも晴れるように感じた。

全てが自分らしいとわかるのは
きっと最期になるだろう。
だから、楽しいことも苦しいことも、
ほんの少し受け入れればいい。

世界中に小さな笑顔が増えますように。

fin.

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?