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頭の中の買い物アドバイザー

たとえば洋服を選ぶとき、店員さんに「何かお探しですか」と声をかけないで欲しいタイプのわたし。「あっ大丈夫ですゥ」と断ったり、声をかけられないようにそそくさと退散したりする。たぶん、洋服を買うかどうかは自分で決められるからだ。

だけど、化粧品など顔や体に直接触れるもの買うときなどは別だ。本当にこの商品が自分の肌に合っているのか、色味はこれで良いのか、使う際は何に気をつければいいのか、など、分からないことがいっぱい。だから、勇気を出して自分から店員さんに質問をすることもあるし、話しかけてもらえるのを待っているときもある。それでもやっぱり、店員さんの声かけを「あっ、大丈夫ですゥ」と断ってしまう場合もあるんだけど、それはすでに万全な下調べを終えて買い物にやってきたときのみである。


そんなわたし、今日もバッチリ店員さんに「何かお探しですか?」と聞いていただいた。何となしに化粧品を見ていた状態だったので、おおいに面食らった。(なお、うがった考えかもしれないが、声をかけていただくのはありがたいと思う反面、店員さんから『商品を買いそうな人物認定』をされたのだと感じて、毎回体に緊張が走っている)
だが、人のよさそうな丸い顔の店員さんに、大丈夫ですゥを言うのは申し訳ない気持ちもあり、見ていた化粧品の質問をしてみる。わたしの肌色に合うモノはどれですかねえ?なんて尋ねると、店員さんがすぐさま商品を見繕ってくれるだけでなく、わたしの首・手にその化粧品を塗布し、濃厚な商品説明がはじまる。

このときのわたしは、「これは営業トーク、わたしの購買意欲を掻き立てるために、化粧品の魅力を順番に並べているだけなんだ」と冷めた心を持っているのが半分。だけどもう半分は、「なんてっ!素敵なっ!!商品なんだっっっ!!!」と、購買意欲の触手がニョキニョキ伸び始めるのだ。この冷めた心と、購買意欲の触手の闘いが、店員さんのトークの合間に繰り広げられている。

店員さんがわたしの手に化粧品を塗布したのを見て、冷めた心は「ちょっと厚塗りに見えない?そんなモノで冒険するより、今持っている化粧品で十分じゃないか」と懐疑的なつぶやきをする。しかし、店員さんが”この商品、つけたままシャワーを浴びても全然落ちないんです”と言うと、購買意欲の触手は「そうだよ!こういう商品を探していたんだ!値段も手ごろだし、試してみる価値はある。買うべきだよ!」とのた打ち回る。

そうしてとうとう、冷めた心は購買意欲の触手にからめとられてしまった。化粧品を片手にわたしはレジへと赴く。冷めた心が、「失敗しても知らないからな」とボヤいている横で、購買意欲の触手はその全手を高々と持ち上げて、歓喜の声を上げていた。


わたしの買い物は毎回こんな感じだ。笑顔で説明をする店員さんの横で、いつも脳内戦争が繰り広げられ、戦いが終わった後も、負けたどちらか一方は「実際に使ってみたら、思ってたんと違う!という結果もあるからな…」「やっぱり買った方がよかったんじゃない?あんなチャンス、二度とないのに…」と囁きかけたりする。

いつかはこの二人が一つとなり、迷わず買い物できる日が来るといいなと思う。

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