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わたしが産まれるよりずっと前の、恋の物語。

面白くて、孫の面倒をよく見てくれて、料理ができるおじいちゃん。



そんなおじいちゃんのことが、小さい頃から大好きだった。



そんなおじいちゃんから、
どのようにして自分が産まれるまで至ったのかを気になり出したのは中学生くらいの頃だっただろうか。


だけれど、おじいちゃんに
「どうしておばあちゃんと出会ったの?」
と聞いても、
「運命だよ。」
とかよく分からない言葉ではぐらかされていた。



というのも、東京の大学に通っていたおじいちゃんは突然秋田の大学に転籍し、秋田出身のおばあちゃんに出会っているのだ。


「どうして秋田に行ったの?」と聞いても、
「おばあちゃんに出会うためだよ。」
としか言われなかった。


中学生のわたしにはよく分からない話なのか、と思っていたけど、
お母さんもよく知らないらしい。


時は流れ、昨年の夏。
久しぶりに家族で秋田に帰省した。


おじいちゃんはわたしがお酒を飲めることに感動して、前回「好き」と言ったプレミアムモルツを
これでもかって言うくらい買い占めていた。
「いや、確かに好きって言ったけどさ…」
と思いつつも素直に缶を開けて晩酌を楽しむ。


せかせかと動き回るおばあちゃんと、何杯目か分からない日本酒を嗜んでいるおじいちゃんを見ていて、
そういえば、今、あの事を聞いてみようと思った。


「おじいちゃんはなんで秋田に行ったの?」
「おばあちゃんと出会うためだよ。」
「あ、いやそうじゃなくてさ…」


「私も知りたい。」
と母が言ったのを皮切りに、おじいちゃんは初めて話してくれた。





今から約60年前。

東京の大学に通っていたおじいちゃんは、
将来の進路を決めるにあたり、教職に興味を持ったらしい。
だが、その大学には教員免許を取れる課程が無かったため、別の大学に入学する必要があった。
そこで選んだのが、たまたまおじいちゃんが尊敬している先生がいたという、秋田大学だった。


おばあちゃんとおじいちゃんは同じ同好会、いわゆるサークルに入っていた。


だが、おばあちゃんが1年生の時におじいちゃんは既に4年生で、
在学中に関わりはほぼ無かったという。

そのまま、おじいちゃんは卒業し、東京の学校に就職した。


それから約1年。
東京のおじいちゃんから秋田のおばあちゃんに急に電話があったという。
「今度の夏休み、秋田に帰るから会いたい。」
と。

おばあちゃんは驚いた。
1年前に卒業した、辛うじて名前を覚えているような男の人からの急な連絡。

LINEもメールもない時代だから、
「会いたい」ってことは、
「好きだった」とか「気になっていた」とか、
「付き合ってくれ」とか言われるんじゃないかなと
構えていたそう。



だけどおじいちゃんは、そんな甘い言葉をかける事なく、普通にお茶をして東京に帰っていった。

おばあちゃんは困惑する。
「あの人はなんだったんだ…?」


そこから秋田-東京で文通が始まり、
なんやかんやあって今まで至る。



なんで最初に会った時、何も言わずに帰ったの?

と聞くと、おじいちゃんは、




「作戦だよ。」


と、ニヤリとした。



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