小さな腫瘍
カメラロールの写真を消す作業は、
頭の片隅からひとつずつ記憶が消え去っていくようで、
少し胸が苦しかった。
身体のどこかに居座っている小さな腫瘍のようなそんな硬い記憶が、
自分の人差し指の操作によって抹消された。
呆気ないものだった。
思い返してみれば、君との思い出なんてこれっぽっちも思い出せなかった。
君との日常は確かにここに存在していたはずなのに、
思い出は薄っぺらかった。
怖い思いをたくさんした、その記憶だけは確かにここに存在していた。
君へ抱いた恐怖の感情も、
帰り道に怯えていたあの夜も、
忘れはしないから。
君への想いはいつしか恐怖へと変わってしまったから、
だからもうメッセージはしないでほしい。
ごめんね。
「ラインも、インスタもブロックするから。」
「じゃあ。」
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