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君がやたら遠く、あるいは近すぎる今年の夏が終わった

私はポカリじゃなくてGREEN DAKARAを選ぶようになってしまった。君はGREEN DAKARAじゃなくてポカリを選ぶようになってしまった。こういう行き違いが私たちの関係性や距離、それか運命そのものを表しているようで苦々しくもあり微笑ましくもある。

君が遠くて、あるいは近すぎて疲れた真夜中はコンビニでハーゲンダッツが当たり前の夏なのに、今年は目の端にハーゲンダッツの期間限定を捉えつつ、私の日焼けしていない手は整然と無表情で並んでいるペットボトルの列から迷いもせずGREEN DAKARAを選んでしまう。600mlって微妙に大きくて邪魔なのに。この手の行く先は、君を通り過ぎる。君に掴んでてほしいわけじゃないけど、するりと抜け落ちるように触れてほしいとは自然と思ってしまうのだ。まだ何も知らなかったとき、目の前だけが現実だと思っていたとき、終電間際のあの改札でそうしたように。


髪をばっさり切った、何かを捨ててしまいたかった、晩夏。


なかなか決まらない日にちや場所、服。今すぐ欲しいときに限って三日も四日もあくLINE。好きになったときにはもう過去になっているカレンダー。思い通りにならないのにはもう慣れてるけど、慣れるのと何も感じないのは違う。テラコッタのネイル、リップ。べっ甲、レオパード。夏は色も香りも薄くなりどんどん秋の鮮やかが迫って来るのに、真夜中、私はまだ広いベッドの上で暑さに溺れそうになっている。息苦しくて、熱っぽくて、GREEN DAKARAに手を伸ばす。届いてやっと触れたのは君の背中。じっとり汗ばんだ首筋に髪がはりついて鬱陶しい。冷房は効いてるはずなのに私と君の体温は熱い。ほんのり蜂蜜の味のキス、もう何も言わないで、大事な記憶が零れ落ちそうだから。

気づいたらこの三日で口に入れたのは巨峰五粒だった。あの日、君と最後に会ったあの日からどんどん身体のはしっこが透けて消えていくような気がしてやたらと爪を確認している。もちろん爪が伸びていくだけだ。「今日は帰る」って押し通したのは私の方だったのに、誰もいない翌朝のオフィスで今頃後悔してももう遅い。お財布も家に忘れて、名刺はちょうどきらしてるし、充電0%のワイヤレスイヤホンは邪魔。次はいつ会える?って聞くのは君。でもなんだかもう会えないような気がするの。それもこれも全部、夏が終わる憂鬱のせいなんだって。また会えたらきっと君は不機嫌な私を夜中の甲州街道の散歩に連れ出して、可愛いって笑ってくれるのは分かってるのに。


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