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縮まらない距離について思考する朝

ベッドから這い出て薄手のパジャマの上からガウンを羽織り、キッチンでカフェオレボウルになみなみとコーヒーとホットミルクを注ぐ。いつもより早く起きた朝。窓の外はまだ暗くて、鳥の声も、クルマの走る音も、何も聞こえない。時計はAM5:17。

こうした無音の仄暗い朝が好きだ。心も頭も空っぽで、世界はまだ始まったばかり。血液も呼吸もすべて新しく生成されたものが循環し始めていると想像するとなお気持ちがいい。私はカフェオレを飲みながら身体が少しずつ温まってくるのと、朝日がビル群の向こうで顔を出したらしく、陽はまだ差さないけれどほんの少し明るくなった外の空気を感じ取り、二人の縮まらない距離について考える。およそ1.5人分のスペースを空けて座ることやエスカレーターを一段空けて乗ることがそのまま私たちの距離を表しているよう。隣りにいるようで「隣り」というには離れている、近づきたいけどあと0.5人分踏み込むには勇気がいる。どちらも相手から来てくれたらいいのにと願っている。なぜ?あと少しなのに届きそうで届かない。君の匂いは分かるほど近くにいるのに。声はありありと思い出せるのに。指の関節や、少し擦り切れたお財布の端っこも知ってるのに。

朝はあっという間に終わってしまう。あとほんの少し縮まらない距離についてもどかしく思いながらもその距離について考える朝は特別な時間で、もし縮まってしまったらこんな朝ももう来ない。朝。苦手な朝。でも君のことを好きでいる間はもう少しこの朝を楽しめそうで何より。カフェオレを飲み干してすっかり陽の差したマンションの向かい側の壁をじっと見つめた。

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