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「宿題」から見た教育改革 ~その③宿題って効果あるの?~

この記事は、日本学校改善学会誌に掲載された学術論文「小学校における宿題に対する教師と保護者の意識に関する考察 -フォーカス・グループ・インタビューの分析を通して-」(2022)と、教諭としての実践論文「宿題から家庭学習への転換 -2年間の学力向上部の取組を通して-」(2022)が優秀賞を受賞した筆者が綴る、宿題に関する考察と提言です。
学術と実践の両面から宿題について紐解きます。

宿題の効果とは?


宿題に関する論考、シリーズ③です。

ここまで、宿題が100年の歴史を経て、形をあまり変えずに毎日行われており、文化として根付いていることや、学校家庭ともになかなかの負荷がかかっていることを述べました。

では、それだけ必死にやっている宿題、効果はいかほどなのでしょうか。

宿題で有名な研究は、アメリカのデューク大学の研究者Harris Cooperら(2006)による『Does Homework Improve Academic Achievement? A Synthesis of Research,1987–2003』という研究。「宿題は学力を向上させるのか」というタイトルです。

この研究は膨大な量のデータを分析していますが、それでも明らかにされたのは「宿題が達成度にプラスの影響を与える」ということに留まり、
(a)幼稚園から6年生よりも7年生から12年生において、(b)宿題に費やした時間を保護者ではなく、生徒が報告した場合に、より強い相関関係が存在するということが明らかにされました。
そして成績との間に関連があるという確証は得られなかったと述べています。
さらに、この研究デザインには設計上の欠陥があることも認めています。
宿題のみの影響を測ることは難しいのです。

日本における研究は本当に少ないのですが、強いて言うなら「宿題の効果」について言及している、という研究を紹介します。なぜ「強いて言うなら」という表現にしたのかは、後ほど説明します。

国立教育政策研究所は、全国学力・学習状況調査(2018)結果から家庭学習についても分析を行っています。ただし、この調査は宿題という言葉ではなく、家庭学習として調査されています。学習習慣に関わる分析として「家で自分で計画を立てて勉強している」「学校の授業時間以外に、普段(月曜日から金曜日)、1日当たり1時間以上勉強をする(学習塾で勉強している時間や家庭教師に教わっている時間も含む)」の項目に肯定的な回答を示している児童生徒の方が、平均正答率が高いという結果が出ています。

また、学校質問紙においては、調査対象学年の児童生徒に対して、「前年度までに、家庭学習の取り組みとして、学校では、児童生徒に家庭での学習方法等を具体例を挙げながら教えるようにした(教科共通)」、「調査対象学年の児童生徒に対する国語の指導として、前年度までに、児童生徒が行った家庭学習の課題(宿題)を与えた」「調査対象学年の児童生徒に対する国語の指導として、前年度までに、児童生徒が行った家庭学習の課題(長期休業中の課題を除く)について、評価・指導を行った。」という項目に関して、肯定的な回答と平均正答率に関連がみられていると述べています。

耳塚ら(2014)は、平成25(2013)年度の全国学力・学習状況調査の結果から、家庭の経済状況等を含め、家庭・地域・学校・施策等が児童生徒の学力等とどのように関係しているのか、分析を行いました 。その結果、学力は児童生徒の社会経済的背景(SES)および学習時間の量によって規定され、SESが高いほど、学習時間が多いほど学力が高いこと、学力はSESに規定されつつも、学習時間の多さが高い学力の獲得に対して独立した効果を持っていること、宿題をする児童生徒ほど高い学力を得ることができること 、を明らかにしていています。

また、学力につながる学習時間のポイントが、小6時点では「30分以上」であり、中3時点では「全くしていないかどうか」という具合に異なることも明らかにしています。さらに、どのような学校の取り組みが学力格差を縮小するかを分析し、教員間で「家庭学習の共通理解」をしている学校ほど、児童生徒の学力格差が小さいという結果を得ているそうです。
以上の分析から、学力格差縮小には、宿題ないし家庭学習の取り組みの重要性が示唆されることを述べられていました。

さて、先ほど「強いて言うなら」という表現をしました。
それは・・・

だって、そりゃ勉強するほうが効果があるに決まっているから。

全くしない人が、そのまま学力が高くなっていくことはありません。
何かに興味を持ち、自分で学び、学習していくことで身についていく力があります。
耳塚(2014)の研究においても、学力の分岐点が中3で「全くしていないかどうか」というところでも、はっきりと分かります。そりゃ勉強してない人より、勉強している人の方が、平均したときに学力が高いのは当たり前ですよね。もちろん、個々のデータをみたときに例外があることはあると思います。ただこちらの研究では、あくまで平均や相関の話です。

”画一的な宿題が学力に正の影響を及ぼす”といったデータはどこにも存在していないのです。

それでも、漢字・計算・音読といった内容の宿題を出し続けている現状があります。最近は少しずつ見直される学校も増えてきたように思いますが。

では、データとしてはなくても、教師や保護者の中で「効果がある」と感じているのでしょうか?

次回に続きます。

参考文献
・Harris Cooper,Jorgianne Civey Robinson,Erika A.Patall(2006)Does Homework Improbe Academic Achiebement?A Synthesis of Research,1987-2003 : Review of Educational Research Vol.76 No.1
・OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018調査報告書 (日本語)国立教育政策研究所2019
・国立大学法人お茶の水女子大学(2014)「平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」83₋118. ※第4章において耳塚寛明・中西啓喜ら「家庭の社会経済的背景による不利の克服」執筆
・宮崎麻世(2022)「小学校における宿題に対する教師と保護者の意識に関する考察 -フォーカス・グループ・インタビューの分析を通して-」学校改善学会紀要2022: 27-41

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