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有料小説

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イベント等で紙販売したものを割安で販売しております。 「古稀来い、恋来い来い」は友人の大学の先生が実際に七十近くで結婚したと聞き、そこから着想を得ました。 「鍵穴チョコレイト」… もっと読む
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有料小説「古稀来い、恋来い」

有料小説「古稀来い、恋来い」

角 冴子、まもなく古稀である。そこそこ裕福な家に生まれた。同世代の友人には怒られるが、オイルショックもバブルもあまりぴんと来ない。ぴんと来ないまま終わった感が否めない。

いつもそうだ。若い頃から流行りのファッションもうまく取り入れられなかったし、結婚もいずれするだろうと呑気に構えていたら、いつのまにか結構な年齢になってしまい、子供の顔どころか花嫁姿さえ見せられないまま、両親は旅立ってしまった。

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有料小説「鍵穴チョコレイト」

有料小説「鍵穴チョコレイト」

ヨシくんとは別々のクラスだったけれど、家が近かったのでよく遊んだ。ヨシくんは背が低く色黒で、にかりと笑うとすきっ歯の白い歯が、墓石みたいに並んでいた。短く刈り込んだ頭は絶壁で、その平らな後頭部を手のひらでするりするりと撫でると校庭の人工芝みたいで気持ちよく、わたしはことあるごとにヨシくんの後頭部を撫でていた。そのたびにヨシくんは「よせやい」とわたしの手をくすぐったそうに振りほどいた。

雪深いふる

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