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懐かしい空気を守りたくて

卒業する先輩方にプレゼントを渡すため、久しぶりに部活のパートのメンバーで集まった。先輩方と過ごせる最後のイベントである追いコンがこのご時世で中止になり、卒業式の会場にも在学生が行けなくなってしまったのだ。

最後に部活のメンバーに会ったのは、もう1ヶ月以上も前のことだ。あれから楽器も吹いていないし、触れてすらいない。

集合場所である部室に入ると、すでに中では同期と後輩たちが賑やかに話しながら待っていた。うわー、おつかれー!おつかれさまですー!という声に迎えられて、不意に「帰ってきたなあ」という感覚になる。この空気がもう懐かしい。

徐々に人が揃いだすうちに、時間ぴったりに先輩の一人がやってくる。それから少し遅れて二人目の先輩、そして最後に何分も遅れて登場した先輩。必ず一人は遅れてくる(というかもはや時間通りに来るメンバーの方が少ない)お決まりの流れですらたまらなかった。そりゃあねえ、この人たちに囲まれて生きてたら私も遅刻魔になるよねえ(今日は遅れなかったのでえらい)。

ようやく全員が揃ったのでプレゼントを渡すと、先輩方は声を上げて喜んでくれた。「自分らこんなことしたっけ、去年先輩に何した?」「ハグはした」「ウケる」なんてやりとりを聞いては笑う。部室には冷暖房がないのですっかり冷え込んでいたはずなのに、なんだか今のこの空間だけはあたたかく感じられた。


この時間がいつまでも続けばいいのに。そう願っても長時間は居座っていられない状況がもどかしくてならなかった。部室を出て、笑い声を上げながらみんなで帰り道を歩いて、一人また一人と散り散りになっていく。

最後に一人になると、言いようのない寂しさに襲われた。会っていたのは、話していたのはほんの一瞬なのに、何日も一緒に旅をした後のような、大きな演奏会を終えた後のような不思議な虚無感。ああ、私やっぱりこの人たちのことが好きだなあ、とひっそりと噛み締めた。

大好きな同期、大好きな後輩、大好きな先輩、大好きな音楽。それらに常に囲まれていた毎日が、どれだけ幸せで満たされていたことか。今更のように気づかされる。もっと長く、もっと大切に過ごせていたらよかったのになあ。


来年度のコンクールメンバーが、このままだとかなり危ういという話を後輩に聞かされた。うちは基本的に3年で引退で、4年生はごくごく少数での参加になる。就活や卒論で忙しいから当然なのだけれど、今のままだと私の担当楽器の奏者がゼロになってしまうらしい。あれ、これは次のコンクールも出る流れなのでは……?と頭を抱えつつ、どこかでそうしたいと思ってしまう私もいる。

まだまだここで音楽を続けていたい。大好きな先輩方はいなくなってしまうけれど、私はまだこの空間を守り続けていたい。失ってからその大切さを知る、というわけではないけれど、なんだか消化不良のような感覚が胸にこびりついているような気がするのだ。

後を継いでくれる奏者が新入生として入ってきてくれるかもしれないし、私がいなくても演奏が成り立つなんらかの方法が見つかるかもしれないけれど。それでも少しだけ、この先に小さな希望を見出してしまった。そんな今日の日記。



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