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吹いて、奏でて、楽しんで。

いつぶりだろう、この気持ちは。
今日は朝からなんとなく浮き足立っていた。なんなら昨日からだったかもしれない。

白のシャツに黒のパンツ。本番用の衣装に身を包み、鏡の前に立つ。あ、やっぱり少し太ったなと苦笑しながらも、前回この姿を見たときからの時の流れを感じる。

本番を意識したお化粧を施すのも久しぶり。なんとなくフォーマルにしたいときのアイシャドウは、いつもこれと決めている。このアイシャドウを乗せるだけで、きゅっと気が引き締まる。


今日は、団にとって1年半ぶりの本番の日。

1年半。
どれだけ練習しても、肝心の披露の場が尽くなくなっては報われなかった期間。あまりにも長すぎた。そのせいでもはや、何がいつ中止になっても動じないメンタルだけが虚しく鍛え上げられてきた。だから今日こうして本番を迎えられたことが少し信じられないほどだ。

今日の天気は、まるでそんな私たちを祝福してくれているかのような快晴だった。光をたっぷり含んだみんなの白いシャツが、眩しくて懐かしかった。

バスクラの重たい楽器ケースを持ち運び、消毒液を手にとるためにそれをいちいち降ろさなければならない。今までとは違う流れに戸惑いはしたけれど、会場の雰囲気、本番の空気感は何も変わっていなかった。

チューニングをしながら、周りの空気がじわじわ本番へと向かいつつあるのを感じる。舞台袖で急に緊張しだす人、私も含め平然としている人。けれど誰しも高揚感だけは胸にあったはず。みんな久しぶりの本番にわくわくしているのが伝わってきた。

そしていよいよステージに立つ。距離を保っているとはいえ、想像以上にお客さんが入っていてドキドキした。ほんの10分の演奏は文字通りあっという間で、ひとまず大きなミスをすることなく本番を終えられたことに安心した。昨日の練習ではリードミスを連発してしまったから、本番でやらかさなくてよかった。

明かりの落ちたステージから舞台袖に入って、バスクラの後輩の子と一緒にほっと胸をなでおろす。演奏直前に譜面台が調整できなくて焦ったとか、あの時音ミスしちゃってとか、そんな話をしながらも心の中には達成感しか残っていなかった。アドレナリンのせいだろうか、本番直後にマイナスな感情を抱いてる人ってほとんどいない気がする。


本番中、そして本番直後のみんなの笑顔が何よりも輝いていると思う。その笑顔は金管楽器のきらめきにもきっと負けない。みんなの全力を音楽にぶつけて、精一杯表現をして、それを誰かに聴いてもらう。何度経験しても飽きない、愛おしい瞬間だ。

この一年間、吹奏楽の醍醐味とも言えるみんな一緒に、がなかなかできない年だった。個人で演奏するのも楽しいけれど、やっぱり誰かと一緒にできると楽しさは何倍にも膨れあがる。最近それを何度も実感している。本番の少ない年だったからこそ、ひとつひとつの演奏の喜びを身に染みて感じるようになった。

今までもこれからも、何度でも言いたい。やっぱり吹奏楽が好きだ。

再来月には今年最初のコンクールが待っている。去年ぶつけられなかった大事な思いを、大きな夢を、今年こそは。



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