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文学研究

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基本的に資料収集と読解です。地味。もっとも、中には世界中でここにしかない情報も……。
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『ハーモニー』読解の部分点〜生前の言及を軸に〜

『ハーモニー』読解の部分点〜生前の言及を軸に〜

 伊藤計劃氏自身の文章やインタビューで、『ハーモニー』の謎について触れたものはない。
 しかしながら、いくつかの謎解きには明確な採点ポイントが存在している。個人的には後から知り、もっと早く解けたのにと悔やんだほどだ。

 では、その資料とは何か?
 今から15年前。作家の飛浩隆氏が、生前の作家から聞き出したことを書き残した文章だ。

 タイトルは『伊藤さんについて』。初出は『SFマガジン』2009

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軽くご報告。

軽くご報告。

『ハーモニー』を概観する手材料が揃ったので、現在まとめに着手しています。成果の一部は秋の某イベントで発表予定です。

【補足編】飛火野耀『もうひとつの夏へ(上)』の回収事情

【補足編】飛火野耀『もうひとつの夏へ(上)』の回収事情

・長年、上巻にお知らせが挟まれてたと思ってたら実は違ったお話です。

『もうひとつの夏へ』上巻は 「制作上不備な箇所」があり回収されました。ここまでは単なる事実。
 問題は、「回収のお知らせはどの本に入っていたのか?」です。個人的には、古本で買ったとき上巻に挟まれてたので、まあ上巻にか……と何となく思っていました。

 んで先日、発売当時を知る方と話してたんですが……あれ、そもそも上巻に挟まってる

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『SLAM DUNK』読解~山王戦の桜木花道は一体なぜ大怪我を負ったのか~

『SLAM DUNK』読解~山王戦の桜木花道は一体なぜ大怪我を負ったのか~

 見る限り、簡潔に説明したひとがいなかったので書き残しておきます。

『SLAM DUNK』執筆時にはいくつもの有名エピソードがあり、山王戦の桜木花道の大怪我もそうですね。作品本編で最後に描かれた山王戦、追い上げムードでさあこれからだ、となる場面での、不意の大怪我。

 この大怪我に関しては、作者・井上雄彦自身の発言が有名なものです。描いていて、これはずいぶん酷そうな怪我と分かった。このような旨だ

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「三井寿の湘北加入は予定外だったのか?」を安西先生と宮城リョータで考える/『SLAM DUNK』読解

「三井寿の湘北加入は予定外だったのか?」を安西先生と宮城リョータで考える/『SLAM DUNK』読解

”問題児こと三井寿の湘北高校メンバー加入は、当初予定されていなかった”

 そんな話を聞いて以来、長年引っかかっていました。いったい本当なのだろうかと。そして今回、新作映画への予習段階で思いつきました。
 もしかしたら、原作だけで真偽を確認できないか。
 丁寧に読み込めば、文学研究の手法が使えるのではないかと。
 そう考えて再読してみたところ、果たして、真偽は決しました。以下に書き残すのは何十度目

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【『飛火野耀読本』より】飛火野耀スレッドには何が書かれていたか?

【『飛火野耀読本』より】飛火野耀スレッドには何が書かれていたか?

 「飛火野耀=真行寺のぞみ説」検証のきっかけが匿名掲示板だった、とは 既に書いた 通り。
 この点であの掲示板は、筆者にとって恩義あるサイトではある。
 けれども一方で、数々のガセが書かれていたのも確かだ。
 惜別の意も込めて、ここでは雑多な情報も残しておこう。

 以下、引用はすべて当時の2chライトノベル版、『「飛火野アキラ(字がでねえ)」消息求む』による。 ※くどいようだが、このくだりはあく

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【『飛火野耀読本(仮)』収録コラムより】飛火野耀 『もうひとつの夏へ(上)』初版の回収事情と異同点

【『飛火野耀読本(仮)』収録コラムより】飛火野耀 『もうひとつの夏へ(上)』初版の回収事情と異同点

   ・

 数年前までは、2ch(当時)の飛火野耀スレッドがある程度の解答を提示していました。最近ではスレッドの過去ログに触れることすら困難なため、以下、個人的な調査を行った上で記しておきます。

記事の内容
・文庫カバーでの回収版か修正版かの見分け方。 ※版数は同一。
・回収版と修正版の違い。
・初公開の比較画像3枚。

   ・

 初版かつ未修正版(以下、回収版)かどうかは、いくつかの目安

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『ハーモニー』最終読解に必要なポイント1つ。/伊藤計劃読解

 またつらつらと考えてまして、霧慧トァンの意志(なぜ『ハーモニー』を記したか?)を確定させるに際し、以下の一点が必要と考えるに至ったため、ひとまず記しておきます。

 まず、「大調和後の霧慧トァンは意志を持っている(自身は大調和の影響を受けておらず、また回避手段も持っていた)」のは既に書きました。
 その上で、

・大調和後の生府社会で、御冷ミァハはどう語られているか?

 が情報として必要だなと

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【進捗報告】「なぜ霧慧トァンは『ハーモニー』を書いたのか?」/伊藤計劃『ハーモニー』読解

【進捗報告】「なぜ霧慧トァンは『ハーモニー』を書いたのか?」/伊藤計劃『ハーモニー』読解

 年末の進捗報告です(挨拶)。色々やってるんで自分でもこんがらがる可能性があり、まあ後に続く研究者もいるかも、て感じで書き残します。

 本題。「なぜ霧慧トァンは『ハーモニー』を書いたのか?」ですね。ここ数ヶ月ほど引っかかってまして、この問いが本当の最終問題なのかなーという気はしています。

 まずそもそも、『ハーモニー』本文では、たびたび重要な事実が隠されています。たとえば、一部の旅路。霧慧トァ

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都市伝説が証されるとき~作家・飛火野耀と真行寺のぞみ~

都市伝説が証されるとき~作家・飛火野耀と真行寺のぞみ~

 伝説的な作家・飛火野耀と、謎の女子高生作家・真行寺のぞみ。
 今でこそ二人は同一人物と見なされていますし、説に異議を唱える人はほとんど居ません。

 では、その「飛火野耀=真行寺のぞみ」説はどのようにして広まったのか?
 そもそも「飛火野耀=真行寺のぞみ」は本当に事実なのか?
 事実ならどんな根拠が存在しているのか?
 最初期からの経緯を踏まえつつ、事実確認し広めた側の目線からここ20年を振り返

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【小ネタ】『虐殺器官』と『CURE』『戦争広告代理店』

【小ネタ】『虐殺器官』と『CURE』『戦争広告代理店』

当時から有名な話として、『虐殺器官』は黒沢清監督の『CURE』から発想を得ている話があります。別に目を引く話ではなく、作者当人が述べていたことです。
『CURE』のもう一方の主役、殺意の伝道師・間宮。彼の行動対象が民族単位だったら、と。

そして『戦争広告代理店』。今でこそPR会社の話は珍しくない、けれども刊行当時は衝撃的でした。紛争の風向きでさえ、情報戦が支配しかねないのだと。
「虐殺」の影の、

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【雑記】伊藤計劃、カズオ・イシグロ、小島秀夫/『ハーモニー』と『わたしを離さないで』

 おそらく影響関係がある(『ハーモニー』の執筆難航中に『わたしを離さないで』を読んでいた)ことまでは把握していましたが、いま読み返すと、

「この小説で使われたテクニックについて話し合った」とのことで、もう少し意味合いが変わってきますね。『わたしを離さないで』でのテクニックについて両者ある程度把握していて、なおかつ話し合っていたと。
 加えて、

 との言及もあり、『日の名残り』で使われていたテク

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クラヴィスと悪夢――「死者の国」再訪/伊藤計劃『虐殺器官』読解

クラヴィスと悪夢――「死者の国」再訪/伊藤計劃『虐殺器官』読解

 死者の国とは悪夢であり、中盤以降のクラヴィスには心休まる存在でない ――そんな記事を以前書いた。
 本稿はその続編にして増補版であり、全編を通してのクラヴィスと「死者」の関係を取り上げるものだ。

   ・

『虐殺器官』を通読して分かるのは、死者の国はあくまで全体の一エピソードということだ。そもそも「死者の国」とは、作品中盤までにのみ現れる言い回し」なのだから。

 注意深く読めば、「死者の国

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ETMLが持つ「真の意味」とは何か。 『ハーモニー』読解/伊藤計劃研究

ETMLが持つ「真の意味」とは何か。 『ハーモニー』読解/伊藤計劃研究

基本に立ち返った話をしよう。すなわち、

「なぜ『ハーモニー』でETMLは表示されているのか?」

刊行から今年で15年。あまりに当たり前過ぎて、これまで見過ごされて来た観点だ。

   ・

ETMLは現実のHTMLに想を得ている。

ある意味、当たり前の話ではある。本文冒頭のETMLからして、HTMLに加筆される形で表現されているのだから。

〈!DOCTYPE 「〜」〉は〈「〜」形式で書くと

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