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『ハーモニー』読解の部分点〜生前の言及を軸に〜

 伊藤計劃氏自身の文章やインタビューで、『ハーモニー』の謎について触れたものはない。
 しかしながら、いくつかの謎解きには明確な採点ポイントが存在している。個人的には後から知り、もっと早く解けたのにと悔やんだほどだ。

 では、その資料とは何か?
 今から15年前。作家の飛浩隆氏が、生前の作家から聞き出したことを書き残した文章だ。

 タイトルは『伊藤さんについて』。初出は『SFマガジン』2009年7月号。現在は文庫『SFにさよならを言う方法』に再録され、容易に入手可能である。

 仔細は本に譲るとして、ここでは2点を引こう。

伊藤さんは「ぼくの小説はみんな、冒頭に結末が現れているんですよ」という意味のことをいった。

 三月六日、ベッドに横たわる伊藤さんに、私は〈ハーモニー〉世界での子供のことを問うた。伊藤さんは(おそらく〈大人たち〉のことを指して)掠れた声でこう答えた。 「彼らは別の人類だと思っています」

 付け加えておくと、前者は2008年5月時点の発言である点、後者は飛氏の解釈が入っている点に留意す必要はある。

 ともあれ、無論、羅針盤は存在した方が圧倒的に良い。今から完解を目指すなら、避けては通れない道と言える。

 『ハーモニー』読解に挑戦している人は、自分の読みが合致しているか、確かめてみるのも面白いだろう。(了)

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