小説:「金・金・愛」#2

第1話:引退と就職


 幼稚園からサッカーをしていた。

 クラスでも明るい‘’サッカーばか‘’人気者だった。
大学まで推薦入学や特待生として、受験も経験していない。将来の夢もプロサッカー選手だった。そして大学までプレーできた。
 

 サッカー漬けの日々だった。常にサッカーのことを考えていたが、大学卒業と同時に社会人になる決意と共に、大好きであるサッカーを手放して、いわゆる[一般的]という生活を送ろうと決め、サラリーマンになった。

月から金まで働いて、土日休み。大学では部活の寮で生活していたので、何となく一人暮らしをすることにした。

 趣味が無かったので、色々試してみた。パチンコ、酒、競馬、ゴルフ、ダーツ、ショッピング、ドライブ、ボルダリングなど、何も楽しくなかった。


 誘われるがままに行った、会社の人達と飲み会では会社の人の悪い噂や愚痴ばかり。
元々、お酒が入らないと本音を話せない大人がダサいと思っていた。

そういえば、高校時代は部活帰りに、電車で酒臭い50代くらいのサラリーマンを見ると舌打ちしていた。

今ではあの時のサラリーマンの気持ちが少しわかる様な気がする。


 同期と集まる研修があり、その後飲み会をした。飲み会では、下ネタに走る男同期の相手をしながら、女の子にも違う話のネタを振る。

帰りの電車の中でも、酔っ払っていて声が大きくなる同期が周りの人に迷惑がかからない様に、機嫌をとりながら介護する。

隣の40代くらいのサラリーマンに睨まれる。申し訳ないとしか思わない。
自分もそっち側の気持ちで長く過ごしてきたからだ。
俺もこんなことをしていたいわけではない。
当然、全員が楽しいわけではない。気づいてくれ、そこのサラリーマン。

あの頃のサッカー少年に見られたら、舌打ちされるかな?ぶん殴られるかもな。謝りたくなった。

 自分が22歳の社会人になって、ストレスが溜まって愚痴を言いたくなる気持ちはわかっているつもりだったが、飲み会後は謎の疲れがどっと溜まっていた。
自分でも意外だったのは、この疲れだった。


 今までの学生時代は自分の気持ちに正直に生きる性格の持ち主だった。
無理に盛り上げようともせず、どちらかというとしっぽり呑みたい人間だった。

 社会人になり、いわゆる‘’デビュー‘’したかったわけではないが、やっていることは同じだった。
根底にあるものは、誰も傷ついてほしくないというこれだけだったが、誰もわかってくれるわけでもなくて、

気づいた時には自分だけ傷ついて、1人で最寄りの駅から家まで10分の登り坂を歩いていた。

家の近くの公園で普段吸わないタバコを2本以上吸わないと家に帰れないという疲労感と虚無感に包まれていた。
元々、体育大学でサッカーをしていたので、酒・タバコは無縁だった。
真っ暗な夜空とピクリとも動かないブランコを観て、タバコの美味しくなさを改めて感じ、その味が心に遺った。



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