【1分小説】1「シャワー」

　残業終わりの深夜1時。終電もなくなった男は会社近くの漫画喫茶で夜を明かすこととした。
　実はこの時間に仕事を終えることはよくある為、常連だ。

　200円払えばシャワーも使えるし、部屋は扉を閉めれば自宅と変わらない。違う事と言えば、部屋の天井が空いていて別室の音が聞こえる事くらいか。

　男は汗を流すため、シャワーを浴びる。仕事が忙しく髪を切る暇もなかったから、ずいぶん伸びたものだ。

「そろそろ髪切ったら？」
「ん－、でも次はいつ切りに行けるかな」

　シャンプーは借りれるが、やはりいつも使っている物の方が髪も好むようで、少し不満が残った。

「やっぱりいつものシャンプーが良い？」
「うん、リンスインはあんまり好きじゃないな」

　男の髪を洗う手は止まらない。
　その自覚もなく。

　男は考えている。
　絶対に目を開けないよう、まぶたに力を込めて。

　今、自分は誰と話したのだろうか、と。

「そうね、私もこのシャンプーはあまり好きじゃない」

　一人用のシャワー室でいつもより長かった髪を洗い、男はしばらく目を閉じていた。

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